第07話 異世界アイドル選手権 中編 - 15 - 移動と後処理と事故物件
第07話 異世界アイドル選手権 中編 - 15 - 移動と後処理と事故物件
「事務所があるのはルートワース・シティの南側だ。東側には海があって、その反対の東側には山脈がある。その山脈の麓に樹海があって、今向かっているのはその樹海の入口辺りだ」
俺は口で大雑把な説明をしながら、端末にマップを表示させて斉藤に見せる。
「おお、これはタブレットみたいなやつか?」
原理は魔法であり、動作はCPUではなくマイクロ・コアによるものだが、使い勝手はタブレットPCとそれほど違いはない。
ちなみに翻訳スペルが常時動作しているので、使用者のネイティブ言語によって自動的に使用言語が変化する仕組みになっている。
「まぁ、そんな感じのものだ。で、わかったのか?」
俺が確認すると。
「おお、わからんけど、わかった」
自信たっぷりに斉藤が答える。いつもの斉藤であった。
「そうか、じゃこれは返せ」
いつもの斉藤から端末を取り戻すと、俺はメッセージを送る。
「なにやってんだ?」
めざとく斉藤が見つけて聞いてくる。
「メールのようなもんだ、気にするな」
テクノロジーは違っても、やっていることはメールそのものと言っていい。
「そうか……。しかしあれだな、ここって異世界感がなくてつまらんな」
流れていく窓の外を眺めながら、斉藤はそんな感想を漏らしてきた。
海外旅行の経験すらないような男にこんなことを言われると、若干イラッとしたのはいなめない。
もっとも、俺にひっついてきて、他の異世界を見てきたのは事実なので、俺としても全否定は出来ない。
それからほどなくしてピッカーが停止する。
目的地に到着したのだ。
降りると目の前には大きな門がある。門からは長い塀が続いており、今いる位置から見る限り端は見えない。
「ここは何処なんだ?」
ピッカーが行ってしまうとすぐに斉藤が聞いてくる。
「俺の家だ。来るのは初めてだがな」
そういった途端、斉藤は俺の顔を穴が空きそうなくらいまじまじと見つめてくる。
「まぢかよ……」
絶句した後発した言葉はそれだった。
「会社買収がらみの事故物件だ。自慢できるようなものじゃない」
俺は淡々と話す。
リヴォーク社を買収した後、リベン法律事務所が資産整理をやっていたところ、想像していた以上にヤバイ資産が大量に見つかった。
特に政治家絡みの物件はとても表に出せるようなものではないので、俺の個人資産に移し替えて処理してある。
おかげでリヴォーク社はホワイト企業として生まれ変わったが、俺個人は真っ黒だ。




