第07話 異世界アイドル選手権 中編 - 14 - 推しメン
第07話 異世界アイドル選手権 中編 - 14 - 推しメン
けっこうはっきり言ったつもりなのだが、それが斎藤に通用するかどうかまでは自信があるわけではなかった。
「おう、もちろんだとも。その上であえて聞こう、推しメンが誰であるかを!」
やっぱり分かってないな、こいつ。そう思ったが口には出さない。
最初に言って分からないのだから、この後何回言っても同じである。
こういう時には、強引であっても話を変えてしまうという手段が有効だろう。
「それで、お前の推しメンは誰なんだ?」
俺は逆に聞き返してやる。
おそらく、ファンならこの質問を無視することはできないはずだ。
案の定、斎藤はわざとらしくニヤリと笑った。
表情がよくぞ聞いてくれましたと言っている。
「小島も悪くない。実際、ありゃ一番人気だろう。だがしかし、あえて言おう、サリィちゃん推しであると!」
妙に熱い雰囲気を出して斎藤が語る。
それにしても、こいつの『あえて』推しはなんなんだ……。
「そうか、サリィか。せいぜい良いカモ……じゃなくて、ファンになってやってくれ」
あやうく本音が出かけたが、どうにか立て直すと、俺はプロデューサー的な発言で締めくくる。
「おう、任せておいてくれ。この斉藤さんがファンになったからには……」
言葉を急に止めたのは、おそらく何も思いつかなかったからなのだろうと思われる。
放置しても問題ないのだが、このさい話を変えてしまうことにする。
「今からいく所があるんだが、ついてくるか?」
俺は斉藤に誘いをかける。
まぁ、ついて来ても来なくてもどちらでも俺は構わないのだが。
「いく。最近お前付き合い悪いしな、しっかりと見させてもらうぜ」
なんとなく俺の保護者的な雰囲気を醸し出しつつ斉藤が言った。
「わかった、それじゃピッカーを呼ぶから待っててくれ」
俺は端末に目的地を入力しながら答えた。
「おっ? とまったぞ? おお、無人だぞ!」
止まったピッカーを見て、斉藤がなにやら喜んでいるが、俺は気にせず先に乗り込む。
すると、あわてて斉藤も後から乗り込んできた。
ピッカーが走り出すか出さないかといううちに、斉藤が話しかけてくる。
「で、何処に向かってるんだ?」
まぁ、そう聞いてくるであろうことは予想していた。
「お前、住所を言ってもわからんだろ?」
初めてルートワースにやって来た斉藤が分かっている場所は、ゲートポートと事務所の間だけだ。
「もちろんさ、任せとけ」
何を任せるのかよくわからんが、斉藤は自慢げにそう言った。




