第07話 異世界アイドル選手権 中編 - 12 - 決着
第07話 異世界アイドル選手権 中編 - 12 - 決着
まったく自覚症状がないというわけではないらしい。
ただ、俺としてはそろそろイチリアを連れて事務所に戻らなくてはならない。
メンバー全員がイチリアのことを待っている。
「こいつを調べてみてくれ」
俺は実験施設から取ってきたコアをササキに渡す。
「これは?」
当然のようにササキが聞いてくる。
「実験施設の中枢から持ってきたコアだ。研究者によると、すべての実験データが収められているらしい。法的な証拠には使えないかも知れないが、あんたが知りたかった情報はすべて手に入れることができはずだ。ただし、俺が引っ掻き回したから、すぐにでも検挙に踏み切ったほうがいい。姿を消す前にな」
俺が連中の立場だったら、証拠になりそうな物はすべて処分してすぐにでも逃げ出すだろう。
「こいつが……。急いで中のデータを調べさせてくれ。それと、地元の警察に連絡を入れて、人員を揃えさせてくれ。時間がない、逮捕状は後から請求する。すぐにでも踏み込むぞ」
コアを受け取ったササキがたて続けに指示をだす。
とりあえず、こっちの方は任せておいてもよさそうだ。
俺は改めてイチリアと向かい合う。
可愛い顔が涙でぐしゃぐしゃになっていた。
「いくか?」
俺は短くそれだけを聞く。
するとイチリアは黙って俺の腕に自分の腕を絡めてきた。
どうやら、一緒に行くということらしい。
「あらあら、若いっていいわねぇ、いい男に躊躇なく甘えられるんですもの」
茶化すように言ったのはラフィネである。
ただ不快な感じがしないのは、その裏に秘められた思いがあるのだという気がするのは、けして考え過ぎなどではないだろう。
そして、俺以上にそれを感じているのは、たぶんイチリアである。
ラフィネに向かって、イチリアは黙ったまま思いっきり舌を出す。
それを見て笑ったラフィネの顔は、たぶん母親の顔だった。
少なくとも俺はそう感じた。
「少しよろしいですか? 色々とお話を聞かせていただけたらありがたいのですが?」
そう言ってラフィネに近づいたのはササキだった。
これからラフィネに事情聴取をするつもりなのだろう。
なにしろ人体実験の被験者になりかけた女性だ。
連邦警察にとっては、とても重要な人物である。
「あら? ただでお話しろということ?」
ただで助けられたラフィネがそんなことを言っている。
俺は苦笑するしかなかった。俺の横では、イチリアがそっぽを向いている。
娘としては色々と複雑なのだろう。
この母娘関係は今後も一筋縄ではいかない感じである。
俺は、イチリアと一緒に歩き始める。
事務所に帰るのだ。




