第07話 異世界アイドル選手権 中編 - 10 - ラフィネ
第07話 異世界アイドル選手権 中編 - 10 - ラフィネ
声を出してはいるが、実際には相手の脳に言語認識させているだけなので、ラフィネには普通に聞こえているはずだ。
「あ、なんか、アルネ……じゃなくて、娘からそんな話聞いたような気がするんだけど。それで、借金の方は大丈夫なの?」
ラフィネはイチリアのことを本名で言って訂正する。
次に口にしたのは、この期に及んで借金の話だった。
どうやら、自分が置かれている状況を承知していないらしい。
でも、さすがに今この場で説明するような時間はない。
「お金のことは気にしなくてかまいません。すぐにここから出ますよ、お母さん。私に掴まってください」
俺が手に入れた証拠で、借金のことなど吹っ飛ぶだろう。
最悪俺が誰にも分からないように裏から手を回してもみ消してもいい。
その手のことは、不得手ではない。
「あら、よく見たら可愛いわね、プロデューサーくん」
ラフィネが俺のことを年下と見て結構ねっとりと絡みついてくる。
経験豊富な人妻的なアレなのだろうが、さすがにこの状況で誘惑に応じる気にはなれない。
多数の気がこっちに近づいてきているのが感じられるからだ。
俺一人なら、敵がやってきたところで、雨が降ってきた程度の鬱陶しさしか感じないのだが、さすがにご婦人同伴となると話は違ってくる。
目的は果たしたし、もうここには用はない。
上に手を伸ばすと、気砲を放つ。
侵入時には制約があったためにできなかったが、もう遠慮する理由はなくなった。
何回層も貫いて、人が余裕で通れるくらいの穴が空き、俺はラフィネを抱いて飛空法を使う。
違法施設を脱出すると、イチリアと連邦警察が待つ倉庫へと戻る。
ただ途中、ラフィネが俺の耳をずっとはむはむしていたことに、最後まで無反応を貫き通したことに関しては、褒めて欲しかった。
俺が倉庫にラフィネを連れて、イチリアの前に降りると母と娘が対面する。
ただそれは、感動の対面とはいかなかった。
バシッ。
という派手な音がしたのは、ラフィネの頬からだった。
イチリアが渾身の力を込めて、母親の頬を平手打ちしたのだ。
「あいたた。なんてことすんのよ、実の母親に向かって!」
左の頬を押さえながら、ラフィネが文句を言う。
「そのくらいですんでよかったわよ、ロクデナシの母親がっ!」
両目に涙をためながら、イチリアは興奮した様子を隠そうともしないでいきり立っている。
これがネコなら、全身の毛を逆立てているような感じだ。




