第07話 異世界アイドル選手権 中編 - 08 - 勘違い
第07話 異世界アイドル選手権 中編 - 08 - 勘違い
ただ、そう言われるであろうことは想定内である。
「ルートワースの法律では、人身売買は重罪だ。今日のところは見逃してやるから、寝ている連中を担いで逃げ出すんだな」
もちろん俺がルートワースの刑法なんぞ知るわけがない。だが、文明国なら普通にあるであろう法律である。
「何言ってやがる。俺達がなんでそんなことをせにゃならん。たんに、そのお嬢さんには協力してもらってただけだ」
その男は明らかに憤った様子で話している。
この時俺ははたと気づいた。
もしかしたら、俺は何か勘違いしているかも知れないと。
「ちょっとまってくれ。俺の名前はナルセだ。この娘が所属しているアイドル・ユニットのプロデューサーをやっている。あんたらのことを教えてもらってもいいか?」
今更ながら、俺は確認をする。
何人か眠らせはしたが、それだけだ。今なら遅すぎるということはないだろう。
「連邦警察、違法魔法取締チーム班長のササキだ。今回そちらのお嬢さんの母が詐欺グループに引っかかった。問題なのはその後で、連中の目的は金ではなく人体実験にあったことが我々の調査でわかっている。彼らは人体実験の被験者の娘も一緒に実験材料にしようと接触してきた。そこで我々は、彼らの逮捕に協力して貰おうと交渉してこの場所に来てもらったんだ」
一気に話してくれた内容には、不審な点は見当たらなかった。
「本当か?」
俺はまだ抱きかかえるように俺の腕にしがみついているイチリアに確認してみる。
すると、イチリアは頷いていた。
「我々は彼女に協力をしてもらい、犯罪組織を摘発するために動いていた。あんたのおかげで、失敗したがな」
ササキと名乗った男はジェスチャーで自分の部下に武器を仕舞うよう指示を出しながら最後の補足説明をした。
「ってことは、さっきお母さんが食べられると言ったのは、文字通りの意味か?」
俺はイチリアに確認を取る。
すると、イチリアはまた黙ったまま頷いた。
俺は、ここで一つ思い当たることがあった。
「わかった、そういうことなら力になれるかも知れない。少し待っていてくれ」
俺は携帯端末を操作すると、リミィに向けてメッセージを送る。至極簡単なものだ。内容は『イチリアの母親の現在位置を教えてくれ』である。
すると、送った後、端末を仕舞うような暇もなくメッセージが返ってくる。文章は一切なく、数字だけが入力されていた。




