第07話 異世界アイドル選手権 前編 - 31 -スカウト
第07話 異世界アイドル選手権 前編 - 31 -スカウト
というのも、軍事施設に努めている魔法学者が忙しいのかどうかなんて、まったく知識のない俺には判断がつかないからだ。
だが、それはカージも同じだったらしい。
しばらくじっと見た後、出した答えはこうだった。
「正直わからん。でも、忙しんだろう。それを前提で話す。頼む、お前しかいないんだ。おれにとっちゃ、お前が魔法学者様なんて言ったって全然ピンとこねぇ。学者様の世界なんて、なんにもわからん。けどな、これだけは分かる。お前は、かつて最高のアイドルだった。だからトレーナーとして、マスター・オブ・クイーン・コンテストの決勝に残ることのできるアイドルを育てるために、お前の力が必要なんだ。頼む、この通りだ。力を貸してくれ」
カージはさらに深く頭を下げた。
事情を知っている俺にもカージの必死さは伝わってくる。ただ、それをどう受け取るのかは本人次第だが。
さて、リミィの場合はどうなのかと思って見ていると。
「変わってないなぁ、カージ。あの頃のままだ。悪びれるくせに、悪にはなりきれない。その中途半端なところに、あたしは惹かれたんだ。結婚の約束までしてさ、でもあいつらにすっぱ抜かれて、あんたは一人でかぶって勝手に一人で堕ちていっちまった。おかげてあたしの時間はあの時止まったままだ。なぁ、酷いと思わないか? カージ」
カージを見つめるリミィの瞳から、いつしか大量の泪が溢れ出していた。
「すまねぇ、ほんと、すまねぇ」
カージはひたすら頭を下げ続けるだけだった。
ただこれで、ようやく合点がいった。この二人は、そういう関係だったわけだ。
問題があるというのもうなずける。
「まぁいいや。それよりさっきの質問だけど、あたしは暇だよ。嫌になるくらい暇を持て余してる。軍のお抱え研究者と言っても、軍事産業のように最先端の研究を潤沢な資金でやれるわけじゃないからね。おこぼれの仕事を、ほそぼそとやってるだけさ。いいよ、やるよ。他ならないカージの頼みだからね。ただし、あの時の約束は守ってもらうよ。いいね?」
泪を拭ってリミィが言った。
「わかった。今度はちゃんと守るよ」
カージが即答する。約束というのがなんであれ、カージとリミィの口元に笑みが浮かんでいるのを見ればおおよそ察しはつこうというものだ。
「話はついたようだな。それじゃ戻ろう。条件の方はカージと話してくれ。よほどの無茶がなければ、大抵の条件は飲むから好きに決めてくれ」




