第07話 異世界アイドル選手権 前編 - 30 -リミィ
第07話 異世界アイドル選手権 前編 - 30 -リミィ
右ストレートである。しかもコークスクリュー気味に回転を効かしたやつ。
これで体重があれば、まちがいなくカージは失神していただろう。
「いやー、悪い悪い。手がすべった。それより、君がナルセ君だね? まさか、こんな所で会えるとは思っていなかったよ。お会い出来て光栄だ」
そう言いながら、リミィと紹介された幼女はハンカチでコブシを拭い右手を差し出してきた。ハンカチの一部が赤くなっていることには触れないでおく。もちろんリミィの右手は無傷であった。
「私のことはご存知のようですね。ドクターリミィ?」
俺はリミィの右手を握り返しながら、カマをかける。見た目通りの年齢じゃないのはほぼ間違いないだろう。それに、部屋を見回した感じ、どこかの研究室っぽい。
そこで、おれはリミィが魔法学者か技術者だろうと踏んだのだ。
「感がいいな、話が早くて助かる。私はリミィ。軍事部門に従事する魔法学者だ」
どうやら正解だったようだ。
ただ、問題なのはこの後である。俺は魔法学者に用があったわけではない。
「いてて、ひでぇな、リミィ。久しぶりにあったってのに、こりゃないぜ」
腫れた顔を抑えながらカージが復活してくる。
「手がすべっただけだ、気にするな。それより何のようだ? こんな大物を連れてきて。もし、バレたら外交問題物だぞ」
それは俺も思った。いくら外交特権があるといっても、他国の人間を軍事施設内に勝手に出入りさせるような国があるわけがない。
「えっ? こいつそんなに大物なの? へぇー」
今更ながら驚いたような顔でカージが見てくる。
わざわざ言ってなかったが、それにしても今まで俺のことを調べなかったというのはある意味大したものだ。
「そんなことより、早く本題に入ってもらったら助かる」
俺がそう急かしたのは何もごまかしたわけではない。
カージが特に興味なさそうな顔をしていたからだ。
そんな状況で俺の立場を説明したところで、ひたすら虚しいだけだろう。
「ああそうだった。実は、トレーナーが病院送りになっちまってな。新しいトレーナーを探してるんだ」
カージはいきなり説明を始めた。前置きなんて一切抜きだ。
「ほう? ということは、またプロデューサーを始めたのか?」
リミィは面白そうにカージに聞いている。
「まぁな。それより、受けてくれねぇか?」
カージが頭を下げる。
リミィはそれには答えずこう言った。
「暇そうに見えるか?」
俺にはなんとも言えない問いかけだった。




