第07話 異世界アイドル選手権 前編 - 27 -気付き
第07話 異世界アイドル選手権 前編 - 27 -気付き
「これで、わかっただろう。いくらやろうが、君は力でも技でも俺には及ばない。それに君程度の実力では、そこにいるレヴンにすら到底及ばないだろう。いくら君が筋肉を鍛えようと、その差は埋まらない。俺やレヴンの体を見るといい。普通に見えるはずだ。それに比べて君の体は歪んでいる。根本的に鍛え方を間違っている。だから、どんなに鍛えても、俺やレヴンには敵わない。筋肉が邪魔だというのは、そういう意味だ」
俺は今までの流れを、強引に筋肉が邪魔だという話に結びつけた。
ただ、実戦を伴っているのだ。それなりの説得力は持っている。
拳で語るような女には特にだ。
「あ、あたしは、間違っていたのか? 強さは、筋肉の量できまるんじゃないのか?」
アイカは悩み始めた。おそらく、人生で初めての悩みなのかも知れない。
ただ、女の悩みとして、そういうのはいかがなものかと思うが。
「だが一つ言わせてもらうと、君は根本的に勘違いしている」
ようやく話は一周してきた。本題を話すための下準備が整ったということである。
「勘違い? なにを?」
アイカの方から聞いてきた。ようやく聞く耳ができたのだ。
「その問に答える前に聞こう。君は何者だ?」
今ならば、この問はアイカの心に届くはずだ。そして、本当はアイカだけに問いかけているわけではない。
周囲の様子をさぐると、メンバー全員が真摯な目で見ている。
その中には、後からやってきた小島の姿もあった。
「あ、あたしは……あたしは、アイドル。はちみつパンプキωのメンバー……です」
全ての不要な物を取り去り、最も純粋な意志だけを絞り出した、それがアイカの答えだった。
「それが分かっているなら、君の問に俺が答える必要はないはずだ。そうだろう?」
俺は再びアイカにバトンを渡す。たとえ俺がそこに導いたのだとしても、最後の果実を摘み取るのは本人でなくてはならない。
「そう、あたい……いえ、あたしはずっと勘違いしていた。あたしは本当は全然強くなかった。こんなに近くに、もっと強い人がいて。アイドルと強さとは違うことなんだって教えてもらって。それで、やっと気づいた。あたしは、アイドルになりたい。誰よりも注目を集める存在になりたい。そのためなら……捨てます。筋肉!」
俺の目を見て、アイカがきっぱりと言い切った。
おもいっきりため息を吐きたかったが、そこは我慢する。




