第07話 異世界アイドル選手権 前編 - 25 -力
第07話 異世界アイドル選手権 前編 - 25 -力
病院送りにされたトレーナーの方は金で黙らせるとして、問題なのは目の前の筋肉馬鹿女である。
この程度のことで一々切れられていては、まともにトレーニングが進まなくなる。というより、トレーナーがいなくなる。
これは、対処しておく必要があるだろう。
俺はできる限り、穏やかに話しかける。
「君の力はそんなにすごいのか?」
アイドル云々のことにはあえて触れずに尋ねた。
「はぁ? 喧嘩売ってんの、あんた?」
アイカはいきなり喧嘩腰で迫ってくる。
「そう見えるか?」
俺は冷静に聞き返す。この態度が、返って油に火を注ぐことになるであろうことを承知でだ。
「馬鹿にしてんだろ、あんたも。ぶっ飛ばされてぇのかよ!」
アイカの口調は、とてもアイドルの物とは思えないようなものになっていた。
筋肉と性格を除けばルックスは良い。だが、筋肉と性格があまりに強烈過ぎてルックスまで他人の意識がたどり着くことは困難であった。
「もちろん、馬鹿にしてるさ。ハリボテの筋肉を見せびらかすことは滑稽以外の何者でもないからな」
俺はまったく感情を交えることなく言い切った。
普通の状態ならば、何かセリフでも読んでるいるように聞こえただろうが、今のアイカには逆に働く。
「てめぇ! このヤサ男が!」
問答無用で殴りかかってくるアイカ。完全にブチ切れ状態になっていた。
俺はその場から、一歩も動くことなく紙一重で交わしす。
「この、クソがぁ!」
さらに、アイカの拳が俺の顔面に向けて連続して繰り出される。
もちろん俺はその全てを紙一重で交わした。
ちなみに、両手は後ろ手に組んでいる。
「君は団扇か? それとも、扇風機のつもりなのかな?」
交わしながら俺が言ってやると。
「て……てめぇ。逃げてんじゃ……ねぇぞ。正々……堂々と勝負しや……がれ。力なら……あたいは……負けないんだ」
力任せに拳を振り回しすぎて、完全に息のあがったアイカが、途切れ途切れの言葉で言ってくる。
「気づかないのか? 俺は、君が最初に殴りかかって来た時から一歩も動いてないぞ。逃げているというのは言いがかりに聞こえるがな。……だが、まぁいい。次の攻撃は受け止めてあげるから、もう一度試すといい」
俺は後ろ手に組んだ両腕を解きながらアイカに向かって、誘うような言葉を口にする。
「はっ。バカか、あんた。あたいの本気の拳受けて無事に済むと思ってんのか?」
急に元気になったアイカが余裕のセリフを口にする。圧倒的な自信があるのだろうが。




