第02話 VSヴァンパイア!-13 - フェンリル戦2
さすがにこの一撃は、舌を噛むだけですむはずもなく、下顎は完全に粉砕された。同時にフェンリルの全身から強烈な冷気が放たれるが、ほとんど大気のない成層圏ではなんの効果もない。
もちろん、俺に対して神力を使って俺を凍てつかせようとしているようだが、そのためにはまず俺の気をうち破る必要があるので、さらに効果はないことになる。
おそらく、これまで神獣が力を使ってきた相手は、神力を使っただけで圧倒してしまえるほどの力の差があったのだろう。
互角以上の相手との闘いを意識をしたこともないに違いない。
ところが俺とフェンリルとの実力差はそれまでの経験とはまったく逆の立場となっている。
だが、そのことに気づいていないようだ。気づいていれば、神力を行使するのではなく、純粋に力をそのままぶつけてくるはずなので、これではまともな戦いにもなりそうになかった。
とは言っても、俺にとってはどうでもいいことなのでさっさとけりをつけることにする。なにしろ、ここまでで予定の半分近い時間が過ぎている。急ぐ必要があった。
俺は遠慮することなく、フェーズ2にシフトする。
地上でこんなことをすれば、それだけで巨大地震が起こり大災害につながりかねないのだが、これだけ離れればさすがに地上への影響は少ない。
まぁ、皆無とは言えないだろうが、激甚災害が発生するほどではない。
ただ、俺と密接する位置にいたフェンリルにとっては災厄であったろう。
フェーズ・シフトの衝撃波を至近距離からまともに浴びたのだ、その証拠に瀕死の状態になって地上に落下し始める。
「ちっ」
あまりの脆さに、俺はつい舌打ちをしてしまった。
二度目の人生を送っているのに、まだまだ修行が足りんなと自戒しながら俺も地上に向かう。
途中フェーズ2で全身に気を纏い正面からフェンリルにぶつかると、まるで蒸発でもするかのように消えてしまった。
この状態ではこの先極めて慎重に行動しなくてはならない。
フェーズ2では何をするにしても、しゃぼん玉に手を触れるような感覚になるからだ。
少しの気の緩みで、地上は壊滅的な状態になりかねない。ましてやフェーズ2の全力で闘ったりすると、この惑星全体が破壊される可能性が高くなる。
もちろん、惑星によってはフェーズ2の全力に十分耐えられるものも存在するが、さすがにそれをこの世界で実際に試してみようというほどには非情になれない俺であった。
などと考えつつも、俺が元の場所に戻ってくると、ルーファとシリンはふたりとも床の上に転がっていたが気を感じる。
どうやら、まだ生きているようだった。斉藤はまったく無傷のようである。




