第07話 異世界アイドル選手権 前編 - 21 -条件
第07話 異世界アイドル選手権 前編 - 21 -条件
「それで、引き受けてもらえるか? 報酬はあんたがプロデューサー時代に貰っていた額の倍を出そう。さらに、成功報酬としてその額の十倍を出す。それとは別に、活動資金はいくらでも提供する用意がある。悪い条件ではないと思うが、どうだ?」
ようするに、金の力で不可能を可能にしようという話だった。
ここで予算をケチった所で意味がない。
「気前いいな。だがな、ムリなもんはムリなんだよ。金さえ積めばなんとかなるなんて甘い世界じゃねぇんだ、アイドルってのはな。あんたが何を考えてるのかは知らねぇ。悪いことは言わねぇから、傷が浅いうちにとっととこの世界から足を洗うこった」
カージは忠告するように言った。アイドル業界を裏表余さず知り尽くした男の言葉だ、軽いものではないだろう。だが、俺としても簡単に手を引けるようなら、こんな所まで来てはいない。
「なぁ、もう一度夢を見てみたくはないか?」
俺はあえてカージの忠告には一切触れることなくそんなことを聞く。
「はぁ? 何を言ってるんだ?」
おそらく、唐突な言葉だと受け取ったのだろう。それがカージの反応であったが。
「アイドルっていうのは、客に夢を売る、そんな商売なのだろう? だが、本当に一番夢を見たいと願ってるのは誰だ? 熾烈な世界に身をおいてまで闘い続けているのは誰なんだ? あんたなら、その答えを知ってるんじゃないのか?」
俺は、さらに畳み掛けるように質問を浴びせる。
その質問を受けたカージは、俺から視線をそらして舌打ちをする。
「ちっ。お、俺は……金だよ、金のために決まってるじゃねぇか」
目を反らしたまま、俺の質問にも正面から答えることなく、そんな答えを返す。
もちろん、俺は逃さない。追い詰める。
「ならどうしてそんなに動揺してるんだ? それに、金さえ積めば勝てるような甘いものじゃないって言ったのはあんただろ。なぁ、一つ聞かせてくれ。なんであんたは、こんな所で暮らしている? あんた、どうしても夢を捨てられないんだろ? 燃え残った炭火がくすぶり続けるように、灰になりきれずに夢の残り火を抱えて生きている。おそらくそんなとこだろ。はっきり言おう。条件は良くない。俺にとってはともかく、あんたにとっては致命傷にもなりかねない。だがな、わかってんだろ? これが、自分にとっての最後のチャンスなんだと。それで死ぬようなら、いっそ死ねばいい。そうは思わないか?」
俺は一気に追い込んだ。




