第07話 異世界アイドル選手権 前編 - 19 -対面
第07話 異世界アイドル選手権 前編 - 19 -対面
まともな神経の持ち主ならば、到底住みたいと思うような場所ではなかった。ぶっちゃけこんな所に住むくらいなら、路上生活のほうがマシに思える。
だが、それでもこの階に人がいることは間違いない。一つだが気を感じる。それがカージで間違いないだろう。
気を感じた部屋の前にくると、俺はノックをしてみる。
予想はしていたが、中から返事はない。気を感じるから、いるのは確実だ。
「カージさん、いますか?」
俺はまず普通に声をかけてみる。中からの反応はなかった。
気は感じられるので、誰かいるのは間違いない。
「カージさん。いるのは分かってますよ。お金になる話しを持ってきました。よかったら話しだけでも聞きませんか?」
俺がそう言ったとたん、中で反応があった。気が動いている。
しばらくそのまま待っていると、ドアが空いた。
ドアの向こう側に立っていたのは、俺より頭一つ分くらい背が高いメガネをかけた針金のような男だった。
「はいんな」
ぶっきらぼうに男が言う。俺は、部屋の中を見回しながらその言葉に従った。
中も外と大差ない感じになっており、到底暮らしやすそうな場所には見えない。
「座んな」
カージが示した場所にはシートが敷かれてあり、おそらくそこが生活の場になっているのだろう。
俺は言われたとおりに腰を下ろす。もちろん、乗り気でないがこのさい仕方ない。
「飲むか?」
そう言ってカージが透明なボトルに入った琥珀色の液体を俺に勧めてくる。
「けっこう」
俺は速攻で断った。パッと見ウイスキーか何かのようにも見えるが、そんなものを買える金があるようには見えないので、得たいの知れない液体が入っていると仮定して対処したほうがいいだろう。
最悪、工業用のメタノールである可能性もある。
「で、あんた誰?」
このタイミングで聞いてくる感じ、いかにもそれっぽくて嫌いではない。
「ナルセという。あんたに頼みたいアイドルユニットがいる」
俺はまず本題から切り出した。こういう暮らしをしている人間に、持って回った言い方は逆効果になるからだ。
「はぁ? 俺のこと知っててきたんだろ? 正気か、あんた?」
自虐的な笑みを浮かべてカージが聞いてくる。
想定内というか、想定していた通りの反応だった。




