第06話 異世界ウォーズ 後編 - 55 - 帰還
第06話 異世界ウォーズ 後編 - 55 - 帰還
リベン法律事務所から外に出ると、ルートワースは暗くなり初めていた。
結構時間が経っていたようだ。
そのままゲートポートに向かって、時間間際にかろうじて間に合った。
向かう先はもちろん魔界マドゥフである。
魔界マドゥフに帰ってきた俺は、すぐに魔王城にいる魔王ゼグルスの下に向かう。
部屋に入ると、ベッドの上で呻いていると思ったが、カウチの上で体を起こしていた。
「なんだ、意外と元気そうだな」
ゼグルスの様子を見た俺がそう言うと。
「お前にこれ以上借りを作ると、安心して死ぬこともできんからな。それよりもう帰るのか?」
ゼグルスが聞いてきた。
「ああ、さすがに首をツッコミすぎたからな。そろそろ潮時だろう」
俺の答えはあっさりとしたものだった。
正直な所、これはまさしく本音である。
「そうか。まぁ後のことは気にするな。魔界といっても、人材がゼロというわけではない。お前の代わりなどいないが、そもそも代わりを探す必要はないだろうしな。あまりにも長く我が何もかもやりすぎた。丁度いい機会だ、ここで一気に変えるつもりだ、多くのことをな。魔界も変革の時を迎えたということだな」
弱っていても魔王ゼグルス。しっかりと先を見据えていた。
「そうだな。まぁお前から押し付けられた物もあるし、完全に縁が切れるというわけではない。どうしても俺の力が必要なら呼ぶと良い。気が向いたら来てやるよ」
俺は若干の嫌味混じりに言ってやる。
「すまんな。だが、それは我が娘ながらなかなかの上玉だ。気が向いたら使ってやってくれ。色んな意味でな。その結果、孫が生まれたら顔を見せに来てくれると嬉しいが、まぁそこまでの贅沢は言わんさ」
魔王ゼグルスは最後にしれっと自分の願望を混ぜてきた。
俺には俺の人生設計があるので、容易には乗れない話である。
「まぁ、何はともあれ達者でな」
俺は最後の別れの言葉を魔王ゼグルスに告げる。
「お前には大量の借りがある、いつかかならず返すつもりだ。それまで無事でいろよ……ナルセ」
どうもゼグルスはなんか俺がいつも危険の渦中にいるような勘違いをしているようだ。俺の日常はいたって平和で平凡なものなのだが……言ったところで信用しない気がするので言わないことにした。
俺は言葉は発せず、後ろを向いて軽く手を降る。
それが別れの合図だ。
「わたくしは、これから先ずっとナルセ様の下で生きてゆきます。お父様、長い間育ててくれてありがとうございました」
俺の横ではそんなセリフを口にして、レヴンが頭を下げていた。
「お前も末永く達者でな。くれぐれもナルセに良く尽くすのだぞ」
これ以上ないくらい父親らしいセリフを魔王ゼグルスが返す。
「はい、お父様。では、これにて」
レヴンはもう一度頭を下げて魔王ゼグルスに背を向ける。
これではまるで、嫁にいく娘と父親の会話のようではないか。
もっとも、ようではないか、の部分は俺の願望なのだが。
本当に困ったものだ。
俺はこの件に関しては金輪際関わらないことにする。
これ以上深入りしてたまるものか。
俺は先に立ってさっさと歩き出す。
この後ルーファを見つけて、勇者による異世界統一をやってるチロを呼び戻す。
異世界統一は俺が動いている間、魔界に干渉させないためのたんなる時間稼ぎなので、勇者がどうなろうが知ったことではない。
そもそも、すでに魔界侵攻の拠り所となっていたリヴォーク社の兵器はすべて魔界マドゥフのものとなったのだ。これ以上戦えるわけがない。
無理に侵攻しようとしたところで、圧倒的な武力差の前に叩き潰されるだけのことだろう。戦争にもならない。
まともな判断ができれば、もう攻めてくることはない。
というわけで、チロの役割はもう終わりだ。
後は日本に戻って、正常な生活に戻る。
唯一にして最大の問題は、レヴンをどうするかである。
俺の家はすでに大量の女共によって占拠されているような状況になっている。
ここに新たに一人増えるのだ。
一体どういう状況になるのか……よく考えたら、今と大差ないことに気づく。
ここまで増えたら、一人くらい増えたところでそれほど違いはない。
一人暮らしをしていた頃の平穏さと比べたら雲泥の差であるが、それは今更ということだろう。
俺はルーファにゲートを作らせて、日本に戻る。
平和で喧騒に満ちた我が家へと。
<第06話 了>