第06話 異世界ウォーズ 後編 - 46 - 最終交渉
第06話 異世界ウォーズ 後編 - 46 - 最終交渉
「その親会社なのですが、今まさに追い詰められた状態です。そこで、条約が締結されて国交樹立が正式に決まる前に、最後の賭けに出てくる可能性があります」
俺の読み通りならば、その準備を今この段階で進めているはずだ。
「最後の賭けですか?」
不思議そうな顔をしてカナエ外務大臣が言ってくる。
そらっとぼけているが、おそらく彼女もその可能性に気づいているはずだ。
「これは、ここだけの話として聞いてください。後々ここで話したことを持ち出すことはけしていたしませんので」
俺が話すと、カナエ外務大臣は何も反応せずにただ聞いている。
政治家としては至って慎重な対応だ。むしろ、官僚に近い気がするくらいに。
当然俺は、一方的に話を続ける。
「ヴェリック社を使うリヴォーク社はおそらく最後の賭けにでます。国交が樹立する前に、魔王ゼグルスを葬り去る。もちろんそのことの責任は問われるでしょうが、それはヴェリック社だ。ヴェリック社一社を切り捨てることで、巨大な資源が手に入る。リスクを考慮しても、あまりに価値のある判断でしょう。ですが、我々としては、そんなことを許すわけにはいかない。今だけではなく、未来永劫です」
俺が説明すると、カナエ外務大臣の顔に若干の疑問が浮かんでいるようであったが、やはり沈黙を守っている。
話を最後まで聞くまでは、態度を保留するつもりなのだ。もちろん最後まで聞いた後も、態度を保留するつもりなのかも知れないが。
とにかく俺は話を続ける。
「これから先、我々魔界とヴェリック社、リヴォーク社の間でなにが起きようと黙認していただきたい。我々はリヴォーク社との間で最終的な決着を望んでおります。ただし、大規模な戦争にするつもりはありません。それだけはお約束いたしますが、ルートワース政府としては、我々とヴェリック社、リヴォーク社との間に対して一切干渉を行わず、不介入の姿勢を貫いていただきたい。これが、我々の望みです。もしそれが可能なら、この件に関しては沈黙を持って答えとして捉えさせていただきます」
俺はそう結ぶ。
そもそも確約などを取り付けるつもりはない。ただ見て見ぬふりをしてもらう、ようはそれだけなのだ。
カナエ外務大臣は、その件に関して沈黙を守ったまま立ち上がる。
「今日はお会い出来て光栄です。それではまた、近いうちに」
俺とカナエ外務大臣はもう一度握手を交わした。もちろん俺の話した内容には一切触れることはなかった。