第06話 異世界ウォーズ 後編 - 41 - 説得
第06話 異世界ウォーズ 後編 - 41 - 説得
俺は具体的な資料にもとづいてさらに質問を重ねる。
「さっきから言ってるとおり、質問の意図がわからないのですが?」
シダはさっきと同じ言葉を若干アレンジして繰り返した。
さすがに役人だけあって、言質を取られるような言葉は簡単には使ってくれなさそうだ。
俺はさらに踏み込んでいく。
「もちろんそれの意味することは一つ。魔界マドゥフにも法が存在するからです。さすがにルートワースにおいても、やってはいけないことの全てが法律によって明文化されているわけではないはずだ。部屋の中で唾を吐いてはいけないとか、飲食店内で大声を出してはいけないとか、そういった常識として判断される類のことです」
ここら辺りはモリタに確認を取ってあるので間違いはない。
「そちらには法律の専門家がいらっしゃるようなので、わざわざ私が答える必要はないのではありませんか?」
どこまで責任を回避しようというのか、シダは責任回避の答弁に終止する。
だが、それも想定内のこと。俺はかまわずに話を進めていく。
「慣習法と呼ばれているものです。その国の文化が社会的な通念として確立したものです。明文化した法律だけでは、どの国においても社会的な秩序は保たれません。法秩序というものは、明文化された法律と慣習法の双方が揃って初めて成り立っています。それは、魔界マドゥフにおいても同様です」
この時、また新たなペーパーがシダの前に置かれた。置いたのはモリタである。
「お手元の資料を御覧ください。ご覧のように、魔界マドゥフにおいても簡単ではありますが、明文化された法律ならあります。ルートワースで言うところの憲法に近いものですが、存在はしているのです。ルートワースに比べて明文化された法律より、遥かに多くのウエイトを慣習法が占めているという違いはあります。しかし、慣習法も法です。そして、それがうまく機能していることは先程の犯罪統計に結果が示されています。これはどちらが良いか悪いかの問題ではなく、単なる文化の違いだと我々は認識しております。以上のことを踏まえて、シダさん先程あなたがおっしゃった、法体系が整わない国という発言は撤回していただきたい」
俺はとことん理詰めで押し切った。というのも、役人が情緒論では一切動かないということを知っているからだ。
情に訴えたところで、門前払いされるのがおちである。