第06話 異世界ウォーズ 後編 - 38 - 怒られる
第06話 異世界ウォーズ 後編 - 38 - 怒られる
「主様。何をされているのです?」
俺が手で先に行くようにと促すと、レヴンはそんなことを聞いてくる。
「お前が先を歩け」
俺は当然のように答える。
すると。
「何をお考えか知りませんが、そのようなことはできかねます」
レヴンはきっぱりと断ってくる。
意味がわからず俺は聞き返す。
「なぜだ? お前が先に税関を通るだけのことだろ?」
若干戸惑い気味の俺に、レヴンは距離を詰めて声を落として話してくる。
「男子たるものが、女の後ろを歩くなど何事です、見苦しい。ましてや、わたくしの主様にそのような無様な真似をさせられますか? 断じてわたくしは、そのようなことは致しかねます」
どうやら俺は怒られているらしい。
まったくもって、とんでもない女を押し付けられたものだ。
「わかったわかった。俺が先に行くからついてこい。ただし、余計なことは一切話すなよ」
俺は頭をかきながら折れる。ここで言い争ってもいいことは何一つとしてない。それに時間もない。
「わかりました。それでは先にお進みください」
レヴンは何事もなかったかのように、俺に向かって先を促す。
俺はモリタに向かって肩をすくめると、モリタは楽しそうにニヤついていた。
だいたいどんな感想を持ったのかは想像ついたが、口にするようなことはない。ここら辺りは男同士にしか分からない共通認識というやつだ。
三人はすんなりと税関を抜けて、表通りに出る。通りには無人タクシーのような乗り物が、ゲートポートから出てきた人を乗せては次々と発車してく。
この無人タクシーは俺が知っているタクシーと違っているのは運転手がいないというだけでなく、タイヤがなくて地面から少し浮いて動いていることである。このあたりが科学技術と魔法技術の違いなのだろう。
俺たち三人は一緒にその乗り物に乗り込んだ。
「これはなんなんです?」
俺が今更聞けないでいることを、レヴンはあっさりと聞いてくる。
「ピッカーです。定額の料金を支払うと、これに入力した場所まで載せていってくれます」
なるほど、タクシーと違って距離に関係なく定額料金のようだ。おそらく無人の自動運転だから可能なのだろう。
「料金って、お金のことですか? 払ったようには見えませんでしたが?」
レヴンは興味深そうに尋ねる。
「ちゃんと支払いはしてますよ。この端末が銀行の口座と繋がっており、自動的に料金が引き落とされるようになっています」