第06話 異世界ウォーズ 後編 - 31 - 紹介
第06話 異世界ウォーズ 後編 - 31 - 紹介
こちらの紹介が終わると、いよいよヴェリック社側である。
ただ、この段階で明らかに顔色が変わって見えるのは、けして気の所為ではないだろう。
わずか一日足らずで、ルートワースから弁護士を連れてくるなどとは想像すらしていなかったであろう。
異世界の後進国だと思って甘く見ていた証拠である。
「えー、私はヴェリック社で武器販売をやっているゲンノです。右隣が同僚のトクセラ。そして左隣の女性が、今回アドバイザーとして同行した弁護士のミセルです」
ヴェリック社側の紹介が終わる。表情は硬いものの、さすがに今は戸惑った様子は見られない。立ち直ったというよりは、必至に隠しているといったところだろうが。
俺は向こうが何か言う前に先に交渉の第一段階を切り出す。
「まず最初にお手元にお配りしてある書面の説明から入らせていただきます」
俺はモリタと二人で作成した資料について簡単に説明する。
内容はほとんどが、二国間の貿易条項の設立に関するものであり、ヴェリック社との武器取引に関する条文は一行も記載されていない。もちろん、魔鉱石をめぐる資源採掘に関する条文も存在していない。
俺が一通りの説明を終えると、ヴェリック社側は三人揃って極めて深刻な表情になっていた。
「これは、一体どういうことなんですか?」
ヴェリック社のゲンノが不快感を隠そうともせず聞いてきた。
「それは、どういうことでしょう?」
俺は笑顔を絶やさずに、そらっとぼけて聞き返す。
「とぼけないで頂きたい。前回来た時に、他からも売り込みが来ていると言われ、兵器サンプルまで見せられました。それを我々は持ち帰り、急遽検討した上で引き返してきたのです。一体どういうことなのか、説明していただけないでしょうか?」
そうなるだろうな、と予測していたとおりの質問だった。
もちろん俺の対応も決まっている。
「ああ、そのことなら忘れてください。どうやら、あの模型を持ち込んで来た者から預かった魔物が勘違いしていたようだ。まぁ、そういうことなので、お騒がせいたしました」
俺はばっさりと切り捨てる。
「そ、それでは、今日の計画が……いや、なんでもありません」
おそらく裏取りをして、虚偽の証拠を揃え、なんらかの圧力をかけてくるつもりだったのだろう。女弁護士を同行してきたのもそのためだ。
だが、俺の一言で計画そのものが消し飛んだ。俺を見る目が恨みがましい。