第02話 VSヴァンパイア!-08 - ヴァンパイア登場1
黒と赤を基調とした、これでもかというくらいに不気味さを強調した大きな部屋の向こう側。数段の高さの壇上に、大きな凝った作りの椅子が置いてあり、ゴシック調の豪華そうな漆黒の衣装を身にまとった極めて美麗な容姿を持った何者かが足を組み、椅子の肘掛けに左肘をついた、耽美な格好で座っている。
そのあからさまなまでにカッコつけな様子に、俺は首筋の辺りがかゆくなってきた。
天地神明、パイパー宇宙神を斃した俺に誓ってもいい。アレは間違いなくナルシスト野郎だ。
出来るならば、半径10メートル以内には近づきたくないタイプのヤツである。
幸いなことに、俺達が今建っている場所から、そいつが座っている壇上の椅子まで二十メートルほどは離れている。
ひとまずは安心……と思った矢先だ。
そいつはいきなり立ち上がると、突然こっちに向かって全力疾走してくる。
ナルシス野郎の必死さに、俺がうわぁぁってなっていると、ルーファの正面に来て急停止する。
急停止したナルシス野郎は腕組みをして自分の髪をかきあげる仕草でポーズを決めていた。
どこまでなんだ、こいつは……と思いながら、俺がドン引きしていると。
「な、なに……いつの間に!?」
自分の目の前に突然ナルシス野郎が出現したのだと見えたのだろうルーファが、素直に驚いていた。
二十メートルくらいの距離を十分の一秒ほどの時間で移動したのだ、俺以外の者にとっては何が起こったのか理解しがたいのだろう。
ナルシス野郎が必死こいて走ってきた甲斐は、それなりにあったのかも知れない。
まぁ、俺にとってはドン引きの対象でしかないが。
「なぜ餌を運ぶためのゲートが、私の下にやってきたのです?」
真っ赤な目と病的な顔色をした、創りだけは良い相貌をルーファに向けてナルシス野郎が言った。
どうやら俺のことは眼中にないのか、それとも気にもならないのかガン無視である。
仮にナルシス野郎のツラをこっちに向けられていたら、俺は暴力的な手段に訴えていた可能性も否定出来ないのでお互いのためかもしれない。
とは言え、ルーファとナルシス野郎との交渉次第で今後どうなるのか予断は許さないだろうが。
俺としてはできるだけ関わりたくないので、しばらくは黙って成り行きを見守ることにする。