第06話 異世界ウォーズ 後編 - 22 - 魔王とモリタ
第06話 異世界ウォーズ 後編 - 22 - 魔王とモリタ
「交渉のたぐいはすべて、そこにいるナルセに任せている。余のために働いてくれるのであれば、ナルセの指示に従うがよい」
魔王ゼグルスは俺の立場を読みきった答えを返してくれる。ここら当たりはすでに、阿吽の呼吸というやつだろう。
ただ、あまりにうまくことが運び過ぎると、妙に嘘くさくなるのでここらでスパイスが欲しいところだ。
「ちょっとお待ちください!」
俺達の後ろから、美少女の高い声がいきなり割り込んでくる。
スパイスの登場である。
「お父様! 私の主様を、私の許可なく勝手にお使いになるのはやめてください!」
まったく恐れ知らずの態度で、ずかずかと前に進みながらレヴンが言う。
「レヴン、客人の前で失礼であろう?」
レヴンとは対象的に魔王ゼグルスが穏やかな声で実の娘をたしなめようとする。
もちろんレヴンは、そんなもので黙っているような娘ではない。
「お父様、このさいですからお話しておきたいことがあります。あの得体の知れない武器を持ち込んだ連中といい、魔界マドゥフに対して戦争をしかけてきた連中といい、お父様の対応は甘すぎます。いえ、甘々です! 得たいの知れない連中は、徹底的に排除すべきです!」
以前のレヴンからは想像もつかないような豹変ぶりであった。かつてのような平和原理主義者の面影はどこにもない。
横にいるナルセは驚いている様子だっが、正直俺も驚いている。
だが、正直面白くなってきたので、しばらくの間黙って様子をみることにした。
「ほう? 平和が全てに優先すると言っていた人間とは思えんセリフだな?」
娘の急変に、魔王ゼグルスも興味深そうに応じた。
ただ、寧ろ魔界の王女としてはこちらの方が普通なのだろうが。
「それは、主様に危険が及ばない範囲においてです。主様に危険が及ぶような要素は、徹底的に根絶することが最優先されるべきなのです!」
どうやら性格の方は微塵もかわっていないようである。それに、自己矛盾していたわけでもなく、俺の身の安全が優先事項になり、平和原理主義者から俺原理主義者に転向したというわけだ。
内心やっかいなことになったもんだと嘆息したが、口にも表情にも出さなかった。妙なとばっちりがこっちに来ると困るからだ。
「それで、ナルセ殿に頼み事をするときにはお前の通せと?」
何気ないように言いながらも、魔王ゼグルスの口元に楽しそうな笑みがわずかばかり浮かんだのを俺は見逃さなかった。