第06話 異世界ウォーズ 後編 - 16 - 契約
第06話 異世界ウォーズ 後編 - 16 - 契約
そういうことなら遠慮せず俺も食べてみる。味は薄皮饅頭に近いが、砂糖は白砂糖ではないようで、若干黒糖のような風味がある。まずくはなかった。これで飲み物が緑茶なら文句はないのだが、詰めが甘い異世界である。
そうこうしているうちに、モリタが戻ってくる。
「いやぁ、おまたせ致しました。さっそくでもうしわけありませんが、こちらの契約でいいか確認いただけるでしょうか?」
細かい字で書かれた書類を提出してきた。
「俺は法律に詳しいわけじゃないので、読みながら説明してもらうと助かるんですが?」
手早く署名しても構わないのだが、そんなことをすると足元を見られかねないのでやめておく。おそらく、まだ何度かこの世界にくることになるはずだから、モリタとの繋がりは残しておく必要があった。
「中々に慎重でいらっしゃる。もちろんですとも、私のような存在はそのためにいるようなものです。お安い御用ですよ」
モリタの方はかえって気をよくした様子だった。どうやら俺のことを、長い付き合いのできる良い顧客になりそうだと思い初めた様子であった。
契約書の内容をモリタの口から説明して、法律上の意味も教えてくれた。優秀かどうかはともかくとして、あまりあくどいタイプの弁護士ではなさそうである。
もっとも、あくまで俺の心象でしかないが。
俺は思いっきり崩した字でサインする。見慣れない字に若干戸惑ったようだが、モリタはなにも言わなかった。
何処の世界でもそうだが、他人が真似しにくい字で署名するというのは普通にあることだ。ましてや、高度な文明を持ち法治主義に寄って立つ世界ならなおさらである。
「はい、これで契約は完了です。これでこれからナルセさんと私が話すことは、内容如何にかかわらず全て守秘義務が課せられることになりました。ですから、安心してお話ください」
俺は放し始める前に、チロに言って支払いをしておくように告げる。モリタはモリタで事務所の人間に会計をしておくように告げた。
「ただ、さすがに此処では安心してお話はできないでしょう。奥の部屋をご用意しましたので、そちらに移りましょう」
俺はモリタに連れられて、一番奥にある部屋へと通された。
「ここなら、盗聴魔法防御も完璧です。当然遠視系の魔法は無効化されます。この部屋の中で話されたことが外部に漏れることはありませんので安心してお話しくださってけっこうです」