第06話 異世界ウォーズ 後編 - 15 - モリタ
第06話 異世界ウォーズ 後編 - 15 - モリタ
「もちろんですとも、今日はそのために来ました」
俺はそう答えると、話を始める前にチロに目配せをする。
すると、チロは換金した紙幣を詰め込んだバッグを応接セットのテーブルの上に乗せる。
「これは?」
不審がってモリタが尋ねると。
「これからお話することは、これから立ち上げる事業において機密扱いとなる内容が含まれています。ですから……」
ここで俺はバッグを開けた。すると、中にはぎっしりと札束が詰まっている。ここの世界での価値がどのくらいになるのかは分からないが、金塊換算では一億円分くらいの価値のはずだ。
はっきり言って大金である。
当然それを見るモリタの目の色が、さっきまでとは変わっていた。
単なる飛び込みの客だと思っていた男が、とんでもない餌をもってきたのだそのくらいは当然の変化である。
それに、中堅どころの事務所を選んだのも、大手事務所より金の力が通用するだろうという目算があったからだ。
そして、どうやらその目算は当たったようである。
「まずはこれを手付代わりとして、正式な契約を交わしてもらえないでしょうか?」
元々魔王ゼグルスから貰ってきた金塊だ。俺としては痛くも痒くもないので、いくらでも大盤振る舞いできる。
「も、もちろんですとも! おい、ビランくん、なにやってるの。お客様にお茶をお出ししないか。気が利かないやつだな、まったく。お茶菓子も忘れるんじゃないぞ! 失礼しました、うちの事務所は揃いも揃って気が利かないやつらばかりでして、誠にもうしわけありません。少々お待ちいただけたら、すぐに契約書をお持ちいたします。お茶でも飲んで、ゆっくりしていてください」
俺は、人間の愛想というものが、これほどまでに変われるものなのかという見本を見せてもらった。
バイブレイターかと思うような速さで頭を下げられた俺は、チロと二人でモリタが戻ってくるのを待つ。
お茶とお茶菓子が二人分目の前のテーブルに並んだ。
「チロ、味見しろ」
疑っているわけではないが、毒でも入っていると厄介だし、そもそもまずい物を飲み食いするような趣味は俺にはない。
俺に命令されたチロは、何も迷うことなくまずお茶をすすった。
ずずずっと啜って、喉が小さくこくりと鳴る。
「美味しいです、ご主人様。味は紅茶に近いです」
まずお茶の味見をした後、チロはすぐにお茶菓子に手を付ける。
「これは……普通に饅頭ですね。あんこもしっかり詰まっています」
普通にお茶菓子だったようだ。