第06話 異世界ウォーズ 後編 - 14 - 法律事務所
第06話 異世界ウォーズ 後編 - 14 - 法律事務所
正直な所、必要な法律上の知識が欲しかっただけで、心配しすぎなのかも知れないと思ったが、万が一どこから情報が漏れないとも限らないという可能性を考慮した。
対応するために出てきたのは小柄な男であった。
「私は当リベン法律事務所のシニアパートナーを努めます、弁護士のモリタと申します」
日本と違って名刺を渡す習慣はないようで、モリタ名乗った後握手を求めてきた。
「俺はナルセ、彼女は俺の助手をやってもらっているチロと申します」
差し出された手を握り返しながら、俺は笑顔を作って自己紹介をする。
「それにしても驚きました。いきなりシニアパートナーが応対されるとは」
事務所の隅に置いてある応接セットのところまで案内される間に俺が質問すると、モリタは弁護士らしい作り笑いを浮かべながら答える。
「見ての通り、うちはそれほど大きな事務所ではなく、メンバーやアソシエイトはすべて出払ってまして。基本的に事務所での応対は私がすることになってるんですよ。それで、この度はどのようなご用件で?」
応接セットの前にきたモリタは、手で座るように合図をしながら要件を聞いてくる。
確かにこの応接セットでの対応となると、お世辞にもVIP扱いとは呼べない。まぁ、門前払いをされなかっただけでも十分ではあるが。
「実は、この度、新しい事業をたち上げたいと準備を進めておりまして。そのためのアドバイスをいただけないかと思いお伺いしました」
俺は予め用意していたセリフを話す。
「ほう? どのような事業内容で?」
企業法務に関わっている事務所ならば、普通の対応であろうことを聞いてきた。つまり、今の時点では不審がられてはいないということだ。
「異世界との交易を考えています」
俺は深く話さず、それだけを告げる。まずは相手の対応をみたい。
「ご経験は?」
モリタは探るような目つきで俺を見ながら短く聞いてくる。どうやら、俺と同じようなことを考えている様子だ。
「個人的に少々」
俺は具体的なことは何一つ言わずに、どうとでも取れるような答えを返しておく。ニュアンスとしては、違法か違法スレスレの取引をやっている可能性を含めたつもりなのだが、果たして相手がどう取ってくれるのかは反応を見るしかない。
「ふむ。なるほど。ただ、もう少し具体的なお話を聞かせていただけるとありがたいのですが?」
モリタが踏み込んできた。どうやら、興味が沸いたらしい。