第06話 異世界ウォーズ 前編 - 28 - 橘美咲
第06話 異世界ウォーズ 前編 - 28 - 橘美咲
「大丈夫、大丈夫、まーかせて」
アイスのカップを受け取ると、躊躇なくアイスをスプーンでほじくりながら、明らかに聞いちゃいないだろうと思われる適当な返答をしてくれた。
まったく、予想に違わない反応であった。
「あなたね……」
ルーファが言いかけるのを俺が押しとどめて、俺は二階に向かって呼びかける。
「美咲、橘美咲はいるか?」
最近、一歩も家から出ていない美咲は、昼間は主に俺のベッドで寝ている。ベッドがないと眠れないという贅沢をぬかす女であった。生憎とベッドは俺の部屋に一つしかなく、なので俺が帰るまでという条件で、ベッドを貸してやっているのだ。
天野ひびきも一緒に寝ているはずだが、こいつは目的が違う。俺が部屋から叩き出すまでは、ベッドの中から出ようとはしない。チロに監視させても良いのだが、さすがにそこまで負担をかけるのは心苦しいものがある。
なにしろ仕事の他に炊事洗濯家の掃除もほぼ一人でこなしている、いまの我が家はチロがいなくてはまともに成り立たないくなっていた。
というわけで、二階から降りてきたのは美咲一人であった。
「あに?」
眠そうにぼさぼさ頭を引っ掻き回しながら、不機嫌そうに聞いてくる。
「しばらく俺とチロとそいつが家を留守にするので、家のことを美咲に任せたい」
俺の言葉に、美咲は不機嫌そうに舌打ちをした。
「ちっ。めんどくさいなぁ。他に頼めないの?」
まぁ、そういうだろうなと思った通りの反応だったので、俺は想定していた通りの答えをしてやる。
「そいつの他には、天野ひびきだけだ。このどちらかに任せられると思うか?」
俺がアイスをべっとりと口の周りにつけながら、脇目もふらずかっくらっているシリンを指さし言ってやると。
「ちっ。しかたないなぁ。でも、はやいとこ帰ってきてよね。あたし、基本働くの好きじゃないんだ」
人としてどうなんだ、という答えをする美咲に俺は自分でもあざといなぁと思うような笑顔を浮かべる。
「助かる。それと、シリンのお守りも頼む」
どちらかというと、こっちの方が本命の頼みごとである。
「わかったよ、じゃあ」
美咲はそう言って手を出してきた。
俺はチロの方を向いて、
「たのむ」
とだけ言った。
「あんまり、無駄遣いはダメですよ」
チロはお母さんのような口ぶりで、諭吉さんを何枚か美咲に手渡した。
本来なら俺が渡したいところだが、正社員であるチロと、学生に過ぎない俺とでは懐事情に圧倒的な格差が存在している。