第02話 VSヴァンパイア!-04 - 人狼2
気を込めた蹴りなので、内部ダメージは見た目よりよっぽど酷いはずなのに、なんとも器用なヤツである。
復活したワーウルフは口を大きく開いて吠え、こちらを見た。
明らかに、俺達を獲物としてみている、そんな目つきであった。
「すべてを焼きつくす地獄の業火よ、我が前に顕現し敵を滅ぼせ。ファイアーストーム!」
完全復活を果たしたワーウルフが、まっすぐこっちに走ってくるのに向かって、シリンが短めの杖を掲げて呪文を唱える。
すると、まるで火炎放射器のように炎が柱状に伸びて、ワーウルフの全身を包み込む。
炎に飲み込まれたワーウルフはすぐに黒煙を上げて燃え始めるが、再生速度の方が早いらしく赤く染まってはいるものの、その姿形は変わらない。
ただ、それでもこの状況で走るのは無理なようで、オドロオドロしい遠吠えを上げながら歩いている。
逆に、全力で炎の魔法を使っているらしいシリンの方が苦しそうな表情を浮かべていた。
ルーファは賢明になって、足元の雪を払って地面に召喚陣を書いているが、半分ほどしか書けていない。
この様子だと、ワーウルフに食い殺される方が早そうである。
一方俺は、手近な雪をかき集めて、ぎゅうぎゅうに固めた雪玉を一つ作っていた。
「おい、死にたくなかったら魔法止めろ」
俺は出来る限り控え目な表現でシリンに言ってやる。
「はぁ、はぁ……なに?」
ファイアーストームの魔法を維持しつつ、聞き返すシリンに、俺はもう少し的確な表現を用いて説明してやることにした。
「そこの、きったない獣に肉団子にされた後、食われて糞になって尻からひりだされたくなかったら、その魔法を止めろと言っている」
俺の正確な表現によっぽど感銘を受けたらしいシリンは、
「はぁ、はぁ……い、いま止めたら、ヤツはすぐに再生するわよ。はぁ、はぁ……それこそ、ヤツに食われるじゃないの……はぁ、はぁ」
苦しい息の中からそう反論してきた。
「いいからやめろ。そんなことにはならん」
繰り返して俺が言うと、シリンは半信半疑のまま答える。
見る限り、どのみちすぐに限界が来そうだが。
ただ、時間がたつと、それだけ奴との距離が縮まる。
俺としてはそれが嫌だった。
「はぁ、はぁ。や、やめるわよ……ほんとに、やめるわよ……はぁ、はぁ」
いい加減、いちいち、はぁはぁ言われるのにうんざりしてきた俺は、できるだけ短く強めに言った。
「さっさとやめろ。無し乳女」
俺の最後の呪文が効いたのか、ワーウルフに向かってまっすぐ伸びていたファイアーストームがふっつりと消えてしまう。
俺は、高温で焼かれて赤く染まっていたワーウルフの口の中に手にしていた雪玉を放り込むと同時に、シリンの体の影になる位置に移動する。
直後に、辺りの大気を震わせる衝撃音と共に、ワーウルフの上半身が綺麗さっぱり消えていた。