第06話 異世界ウォーズ 前編 - 19 - 発端
第06話 異世界ウォーズ 前編 - 19 - 発端
「こちらから探すのをやめる。向こうにこちらを探させるんだ」
俺の発言に、魔王ゼグルスはさらに不審そうな表情を強めた。
「どういうことだ?」
わけがわからないという表情を隠すことなく魔王ゼグルスが聞いてくる。
もちろん、俺は説明することに吝かではない。
だが、その前に現在俺が置かれている状況を一度整理する必要があった。
なぜ、あのレヴン王女のお守りをしながら魔王軍の参謀として指揮を執り、異世界マドゥフに侵攻してきた異世界ルワースの軍隊を追い返さなくてはならなかったのか、それを最初から振り返らなくてはなるまい。
そう、きっきけは俺が自宅に連れ帰ったノラであった。
「どういうことだ?」
俺がその報告を受けたのは、最近俺の家に住み着いたばかりの異世界からやってきた諸悪の根源であった。
名前をノラという。実際にはもっと長い名前なのだが、俺にとってはノラで十分だ。
「それが、どうも敵に情報が漏れてたようで、こちらの世界が特定されちゃったようなんですよね、ははは」
見た目はメガネを掛けた美女が、乾いた笑い声を立てる。
「ほう? それで?」
俺は、できるだけ静かにノラに向かってさらに聞き返す。抑えたつもりであったが、俺の目に若干の殺気が混じっていることまでは抑えきれていなかったらしい。ノラの笑う顔が引きつっていた。
「どうやら、一瞬だけゲートを開いて、アレを送り込んできてるようなんです。私の研究の何が気に入ったものか、ちっともわかんないですけどね、アハハ」
こいつがやっていた研究は、能力者を兵器として使うためのものだった。ザイルブルケン共和国と言って、魔力の存在しない異世界で、魔法に変わる力を研究し続けていたのだ。
もちろん、異世界への侵攻をしたいからに他ならず、その狙いは……。
「確かファーベル皇国とか言ってたな。敵というのはそれか?」
漏れてたと本人は言っているが、俺はこいつが自分で情報を流していたのではないかと疑っている。だとすれば、ファーベル皇国がノラの口封じをしようとしているという理屈が成り立つ。
「い、いやそれがどうも違うようなんですよね。というのも、アレが一体なんなのかさっぱりわかんないんですよ、ハハハ」
どこか他人事のように、乾いた笑い声を立てるノラ口の中に、俺は思わず手を突っ込んでその舌を引っこ抜いてやりたくなったがやめておく。