第06話 異世界ウォーズ 前編 - 17 - 勇者折れる
第06話 異世界ウォーズ 前編 - 17 - 勇者折れる
だが、俺は攻撃を受けながら前に出る。勇者タリィの攻撃は今の俺にとっては前からくるそよ風にすぎない。まるで問題にならなかった。
俺が前に出ることで、勇者タリィは後退するしかなかった。攻撃を続ける以上、他にどうしようもないからだ。俺が攻撃するわけでもないから、避けることもできない。
ただただ俺は前に出て、ただただ勇者タリィは後ろに下がる。
だが、いつまでもそうしていられるわけではなかった。勇者タリィの背後にはあの落とし穴があり、その縁に追いつめられてしまったからだ。
ここで、俺は初めて勇者タリィに声をかける。
「俺が君に攻撃をしないのを不思議に思っているじゃないか?」
当然だと思うような質問だった。平和原理主義者であるレヴン王女ならば別だが、普通の人間は自分を殺ろすために聖剣で斬りかかってくるような人間に対して反撃することをためらったりはしないものだ。
勇者タリィの答えは、歯をくいしばって俺の顔を睨みつけることだった。
「そうだろうな。だが、君はそこらに転がっているような石のことを一々気にしたりはしないだろう? 俺にとって君の攻撃は、それと一緒だ。とても、脅威になるようなものではない。ただ、邪魔になるようなら取り除くことくらいはさせてもらう。こんな具合にな」
俺は、それまで弾くだけであった聖剣ホランドの攻撃に対して、初めて仕掛ける。
指に気を込めて、振り下ろされた剣の腹を叩いたのだ。
聖剣ホランドは、その場所から二つに砕ける。
振り下ろされた聖剣は避けるまでもなく、俺の体を素通りして空を切った。
「あ、あたしの、聖剣ホランドが……」
折れてしまった聖剣を見つめて、勇者タリィが立ち尽くし、そのままの格好で膝から崩れ落ちた。
どうやら成功したようだ。
実の所、俺が折りたかったのは聖剣ホランドなどではない。それならば、最初からできたことだ。
勇者タリィの心。それが、俺の折たかったもの。
俺は、勇者タリィに背を向ける。隙を見せても、もう勇者タリィには襲いかかろうという気配すらなかった。
「これで、対話の入り口くらいはできましたよ。後はお任せします。好きにしてください」
俺が言ったのは、レヴン王女にだ。ちなみに、フェイズ・シフトは解除している。
「不本意ですが、あなたの説得は効果的であると認めざるを得ません。ただ、あなたが魔王軍でやっていることを認めたわけではありませんのでそのつもりで」