第02話 VSヴァンパイア!-03 - 人狼1
派手に雪煙を上げながら、積もった雪の中をしばらく転がって止まる。
フェーズシフトを行ってはいないと言っても、特に手加減などしていないので首の骨と頭蓋骨くらいは砕けたかも知れない。
「どうやら、この世界ではエルフ肉はごちそうなのかも知れんな」
俺が素直な感想を漏らすと、シリンは何か言いたさそうにしていたが、俺には何も言わなかった。
少しは助けてもらって感謝しているのかと思ったのだが。
「あれは……ワーウルフ?」
注意は雪の中に突っ込んでいった獣の方に向けられているようであった。
よく見れば――半分潰れているが――狼の顔をしているように見える。
二足歩行を行ってはいるが、体は深い体毛に覆われていて、狼のようだと言い張れなくもない。
俺としては、今蹴り飛ばしたときズボンに付いた、そいつの体毛の方がよっぽど気になるのだが。
さらに注意してみると、体毛だけでなくよだれのような体液までついている。
正直、気持ち悪かった。
見ているだけで、気分が悪くなってくる。
シリンは右手を前に出して何かのポーズをとっていて、ルーファも足元の雪の上に簡単な陣を書いている。
二人ともひどく緊張しているが、戦意は満々といったところか。
一方、勝手についてきた斉藤は一人でパニックになっていた。
「あ、あ、ありゃなんだよ? く、くわれるの? オレ達くわれちゃうの?」
斉藤の言葉が分かった、というわけではないのだろうが。
「ワーウルフはミスリル製の武器か、神聖系の魔法しか効かない。あたしの使う破壊系の魔法じゃヤツを倒せないわ」
シリンが緊張感丸出しの言葉を口にする。
そういえば、魔王も倒せないとか言ってたし、この女の魔法で倒せる相手がいるのか疑問を感じるところだが、まぁ俺にとってはどうでもいい話しなのでとりあえず無視する。
「やっぱり、戦士抜きでワーウルフを相手にするのはつらいわね。どうにか、あいつを足止めして時間を稼いで。氷雪の精霊を召喚できれば、あいつをしばらく氷漬けにできるわ」
どうやら、シリンとルーファで連携して何かやろうとしているようである。
俺を当てにしないのは、少しばかり見なおしたが、あんな気持ち悪いヤツに近寄られるのは嫌なので、俺の方で対処することにする。
女二人が話している間に、ワーウルフは首の折れた頭を両手で掴んで無理やり元の位置に戻して正面に向けていた。
それだけでなく、潰れていた頭の左半分がもりもりと復活してきていた。