第06話 異世界ウォーズ 前編 - 16 - 交渉準備
第06話 異世界ウォーズ 前編 - 16 - 交渉準備
「目を覚ましたら、話し合います」
レヴン王女は即答する。
ですよねぇ、っていう感じの答えだった。
つまり、想定の範囲内である。
「では、その前に対話の土台を作っておくことにしましょう。少々お待ちを」
俺は言い置いて、勇者タリィのいた穴の底から聖剣ホランドを取ってくる。聖剣の周りの土が掘られていたから、なんとか取り出そうと努力はしていたようだった。
俺は、勇者タリィの目の前に聖剣ホランドを突き刺して、すぐに目をさますようにお尻の辺りを軽く蹴飛ばした。
「あういっ!」
おかしな悲鳴と一緒に、勇者タリィは目をさます。
目の前に聖剣ホランドが突き刺さっていることに気づき、それを掴むと同時にいきなり斬りかかってくる。
俺は、その攻撃を左手の人差し指で軽く弾いた。
もちろん、それで終わったわけではなく、立て続けに攻撃がくる。
連撃である。俺はそれをことごとく指ではじいた。
フェイズ・シフトをやってるいるわけではないが、この程度ならば余裕で対応できる。ちなみに、この場を一歩も動いていない。
絶え間なく全力で勇者タリィは斬りかかってきたが、全力の動きなどいつまでも続けられるわけがない。俺が余裕なのは、全力には程遠いからだ。
勇者タリィの動きが急速鈍くなってくる。そのことに自分で気づいたのだろう、一旦後ろに飛んで離れた。
俺から一切攻撃はしていないのだから、そんな必要はないのだが、やはり戦いの中で生きてきた勇者としての本能がそうさせるのだろう。
「化物め! これで、終わりだと思うな!」
勇者タリィはそう言うと、口の中でなにやら呪文を唱え始めた。
すると、聖剣ホランドに青白い光が宿る。明らかに、そこから力を感じる。そして、その力は勇者タリィにフィードバックされるようだ。
一体、それが何を意味するのかは、すぐに分かった。
勇者タリィが斬りかかってきたからだ。それも、以前よりも格段上のスピードとパワーを伴って。
初撃は弾いたが、連撃を受けるとパワーで押され始めた。
フェイズ・シフトを使ってはいないとは言っても、この俺を押し込んだのだたいしたものである。
だが、時間もないしいつまでもこんな遊びに付き合っていいるつもりはない。
フェイズ1にシフトする。これで、状況は一変する。
相変わらず勇者タリィは聖剣ホランドの力を引き出して、全力の攻撃を続けている。