第06話 異世界ウォーズ 前編 - 12 - 王女と交渉
第06話 異世界ウォーズ 前編 - 12 - 王女と交渉
俺は、勝利の宴を開くための段取りをしなくてはならなかった。はっきり言って雑用以外の何物でもなく、面倒くさいという以外の表現は思い浮かばないのだが、他に仕切れる者が存在しないので俺がやるしかなかった。
参謀と言っても魔王軍には俺の他に参謀はおらず、作戦立案も指揮も俺一人でやる必要があった。もちろん雑務からレヴン王女のお守りまで手広くこなしている。
我ながら、よくもまぁこんなことやっているな、と思うが他に誰もやれないのだから、しかたなくであろうが俺がやる他なかった。
もしかしたら、俺って超人なのではなかろうか、と思い始めているところだった。ただ、そうだとしたら、超人とはなんとも損な役割である。
俺は、前線への指示を一通り出し終わると、すぐさま補給部隊と給仕部隊へ伝令を送り、夜宴の準備に取り掛からせる。
まだ、残党が残っているので、一度に全員とはいかないが、交代で祝宴をさせるつもりだった。
その上で、俺はレヴン王女に夜宴での勝利宣言を依頼する。
その答えは、案の定というか想定の範囲内であった。
「いやです」
それだけ言うと、そっぽを向いて、俺とは目を合わそうとはしない。
「一言だけ、『我が軍は勝利した』って言うだけでかまわないのですが?」
俺は諦めることなく交渉を始める。とりあえずは、様子見的なところからだ。
「いやです」
レヴン王女はまったくおんなじ答えを返してきた。
同じ返事を延々繰り返されると厄介なことになる。
なので、そうならないように手を打っておくことにした。
「そうそう、現在敵部隊への追撃を行っているのをご存知でしょう? 知ってのとおり、随分と改善したとは言っても魔王軍の規律はよろしいものとは言えない。私も注意していますが、全部隊を監視することなど不可能だ。前線では捕虜を使って憂さ晴らしをしようと考えるコボルト共は当然ながらでるでしょう。ただ、恐れ多くもレヴン王女殿下がお出ましになり、その労をねぎらい、酒や肴を振る舞ったならば、いちいち捕虜などにかまっているものなどいなくなる。そうは思いませんか?」
俺の言葉に対してレヴン王女は怒りの篭った視線で返してきた。いわば、敵の捕虜を人質にとって交渉しているようなものだ。それも当然の反応だろう。
それでも反論してこないのは、俺以上に魔王軍の本質を理解しているからに他ならない。