第06話 異世界ウォーズ 前編 - 10 - 聖剣ホランド
第06話 異世界ウォーズ 前編 - 10 - 聖剣ホランド
「勇者タリィ。君はまるで子供だな。そんなだから、味方を敗北へと導いたのだ。君はそんなことなど気にならないかも知れないがね。結果的に魔王軍を勝利に導いてくれた恩人だから、願いを聞いてやりたいところだが、これでも魔王軍の参謀としての責任があるのでね。お礼だけ言っておくよ。ありがとう」
俺はわざとらしく深々と頭をさげて付け加える。
「もう会うこともないだろうが、その穴の底でせいぜい達者で暮らしてくれ。ではな」
俺は内心ほっとしながら別れを告げる。
勇者タリィと二度とかかわらないですむというのは、正直ありがたい結論であった。
ところが、俺の言葉が終わるか終わらないくらいの時点で。
「てめぇ、今すぐぶっ殺す!」
叫び声のような言葉を発すると同時に、勇者タリィが穴の底から武器を投げてきた。
刃渡り1メートルを超す刃物。勇者タリィが無数の敵を葬ってきた聖剣である。
強力な兵器である聖剣は、たとえ魔王であっても致命傷を与えることが可能だ。おそらくは、勇者タリィのいる異世界ルワースにおいて、最強の武器の一つだろう。
そんなものを投げつけてくるなど、トチ狂ったとしか思えない。
「おい、いいのか? こんなレアそうな物を投げてよこすなんて。一体いくら位になるのかは知らんが、お礼を言ったほうがいいか?」
俺は、だんじて泥棒とか強盗などしたことはないし、今後もするつもりはない。だが、貰い物を断ったりはしない主義である。
だから、さっそく礼を言っておく。トチ狂った行動だとしても、貰い物をしたらお礼をするのは礼儀というものである。
「てめぇ、何をしやがる。返せ、あたしの聖剣ホランドを返しやがれ!」
勇者タリィはいきなり返却を要求してきた。どうやら俺の勘違いだったようだ。だとすれば、多少問題がある。俺以外の――たとえばレヴン王女が此処に立っていたら、確実に死んでいたからだ。なんとも、ぶっそうな話しになる。
なので俺は、苦情だけは言っておくことにする。
「手がすべったのなら仕方ないが、大切な物はあまり他人に投げて寄越すような真似はしないほうがいいぞ。勘違いされてしまうからな」
それだけ言った後、俺は勇者タリィの足元にめがけて聖剣ホランドを投げ返してやった。
ただ、想像以上に切れ味が良くて、聖剣ホランドは土の中に、柄まで埋まってしまう。
「あっ。すまんな、加減を間違えた。でも、君には時間はいくらもあるからゆっくり掘り出してくれ。じゃあな」