第06話 異世界ウォーズ 前編 - 05 - 間抜け……
第06話 異世界ウォーズ 前編 - 05 - 間抜け……
寄り道などするつもりはまったくないようであった。
そして、レヴン王女との距離が十メートルほどになったところで、勇者はいきなり視界から消えた。
もちろん、俺の目で捉えることができないほどの速さで動いた、というわけではない。本当に、視界から消えたのだ。そして、俺は勇者がどうなったのかを知っている。
俺は、少し歩いて、目の前にぽっかりと空いている深い穴の中を覗き込んだ。
すると、ずいぶんと下の方に勇者が仰向けにひっくり返っていた。三階建ての建物くらいの高さがあり、死にはしないだろうが、骨折くらいはするだろうというくらいの深さがあった。
もちろんこれは落とし穴であり、飛空法が使えない人間だとけっこう効果的な罠となる。
実際、勇者はふらつきながら立ち上がった後、穴から出られなくなった。
「卑怯者! ここから出せ!」
落とし穴から出られないことを確認した勇者が、そんなことを叫び始めた。
さすがというべきか、どうやらどこも骨折していない様子だった。
「早くここから出せ。今すぐ殺してやる。この卑怯者め!」
物騒極まりないやつである。だからこそ、勇者などやってられるのだろうが。
相手にしても仕方ないので、俺はスルーする。今は相手にしている暇はない。
「貴様、ぜったいぶっ殺す!」
俺が背を向けて歩き出したら背後からまた声が聞こえてくる。
なんとも、すがすがしいほどの物騒さであった。
計画していた通りだとは言え、女勇者の侵攻によってそれなりの被害がでている。これから早急に、魔王軍の陣営を立て直す必要がある。
俺が指揮所に戻ろうとすると、レヴン王女が背後から俺の腕を取った。かわそうと思えばできたが、あえて取らせる。俺が天幕をふっ飛ばしたのだから、それなりの責任は感じているのだ。
「まちなさい。彼女をどうするおつもりですか?」
予想どおりの質問だった。
その心配を少しは味方にも回して欲しいものだがしかたない。どの道俺が何を言おうが、聞く耳など持たないだろう。原理主義者とはそういうものだ。
「おや? 聞いてなかったと? ここに、このまま放置するつもりですが?」
俺は、わざとすっとぼけた感じで言ってみる。
「聞いてました。わたしが聞きたいのはその後のことです」
やはり聞いてきた。この質問は俺の想定内というか、計画内であったのだが、もちろんそんなことを教えるつもりはさらさらない。