第06話 異世界ウォーズ 前編 - 04 - 釣り餌
第06話 異世界ウォーズ 前編 - 04 - 釣り餌
勇者がやってくるというのに逃げ出さないだけ大したものである。素直にそう思っているが、もちろんそんなことを言ったりはしない。
俺は、嫌われ者である必要があるし、後々のことを考えたらその方が都合がいい。
天蓋が無くなった俺たちの所に、伝令がやってくる。
「勇者が第二防衛線を突破しました」
それは、俺の計画が最終段階に移行したという知らせでもあった。
伝令の報告に頷くと、俺はレヴン王女の方を振り向いた。
「今から、勇者を生け捕りにする。あなたを見た勇者は、一直線にここにやってくるだろう。絶対にここから動かないでほしい。作戦が失敗すれば、勇者を殺さなくてはならなくなる」
半ば脅迫めいた、というか脅迫そのものの俺の言葉に、レヴン王女は唇を噛み締めながら口惜しそうに答える。
「そなたは、ろくな死に方しませんよ」
余計なお世話だと思いつつ、俺は黙っていた。
というのも、勇者の姿を視界にとらえたからだ。
ちょうど、最後のトロールを微塵切りにするところであった。
なんで、そんなめんどくさいことをするのかは俺には理解できないが、勇者は楽しそうに笑っている。
どうやら、殺戮を楽しむタイプの勇者らしい。
あまり世間一般には知られていないが、勇者には比較的多いタイプの性格である。また、そうでなくては、相手が魔王軍とは言え、これだけ戦闘力に開きのある相手を徹底的に蹂躙し続けることは難しいだろう。
ここで、俺は一つ勘違いしていたことに気付いた。
遠目ではあるが、どうやら勇者は女のようである。
どうやら、勇者も魔族の王女であるレヴン王女の存在に気が付いた様子だ。視線がしっかりとこちらを捉えている。
俺は、ゆっくりと横に移動する。
もちろん、レヴン王女がよく見えるようにしたのだ。
最後のトロールが斃されたので、近衛兵が闘いを挑むが相手になるはずもなく、一振りで葬られていく。
事前に無理はするなと伝えておいたのだが、それなりに忠誠心が強いようで次から次へと、一刀のもとに切り伏せられた。
その様子をレヴン王女もしっかりと見ているはずなのだが、何も言わなかった。ひょっとすると、平和原理主義者としては味方がやられる分には構わないのかも知れない。
もちろん、俺にはどうでもいいことなので、深入りするつもりはまったくないが。
そんな感じで、女勇者はまるで野辺で草刈りでもするかのごとくこちらの兵士を切り払いながらどんどん近づいくる。
まったく迷うことなく、まっすぐにこちらに向かってくる。