第06話 異世界ウォーズ 前編 - 01 - 指揮
第06話 異世界ウォーズ 前編 - 01 - 指揮
俺の目の前には大きな地図が広げられている。
その地図の上には幾つもの駒が置かれており、長い棒の先に板を取り付けた道具でそれを移動させる。
それを見ると、左翼の部隊が前に突出してきている。
一見優位に運んでいるようにも見えるが、明らかに不自然な動きだ。
「おそらくこの位置に敵部隊が伏せられている。ただちに待機している騎馬部隊を投入し、伏兵を蹴散らせ。そこから、一気に敵陣の腹を食い破るんだ」
俺は手にした長い指示棒で指し示しながら指示を出すと、それを聞いた伝令が出て行った。
すぐに次の伝令が俺のいる天幕の中に入ってきて待機する。
それとは別に、前線から戻ってきた伝令が到着し、それに基づいてまた駒が移動される。
どうやら右翼の部隊に動きがあったようで、後方へと駒が動かされた。
急に右翼が後退を始めた。あきらかに、なにかある。
だが、これは予想がついていた。
まったくもって、想定内の展開である。
「右翼部隊に伝達、そのまま『勇者』を本陣に向かって誘導しつつ、頃合いを見て撤退するように」
右翼において敵部隊が優勢なのは、敵方の最強兵器である『勇者』が投入されたからだ。
圧倒的な戦闘能力を秘めた最終兵器『勇者』が、最強の装備に身を固めて実戦投入されれば無双状態になることはわかりきっている。
こんなものをまともに相手にするのは馬鹿げている。
消耗戦、それも味方だけがひたすら消耗していく戦いなど挑む必要はない。
もし『勇者』が現れたら、極力戦闘はさけつつ本陣の方に誘導するように申し渡している。
今出した指令は、それを徹底させるためのものだった。
「よし、これから勇者がここにくる。王女陛下にお出ましいただこう」
今、俺がいるのは本陣の中にある、作戦指令所となっている天幕の中だ。
直接の指令は俺が全て出していて、総指揮官である王女殿下は名ばかりのお飾りだ。ただ、飾りというのは見せてこそ意味がある。とくに、ここぞというときにはいてくれないと困る存在でもあった。
俺の命令を受けて、伝令が飛び出していくが、すぐに戻ってきた。誰も連れることなく一人でだ。
正直、子供の使いか? と言ってやりたかったが、あまりにこすられすぎた言い回しなので、やめておくことにする。
「何があった?」
俺が端的に質問すると、
「はい。王女殿下にあられましては『争い事は嫌いです』との仰せです」