第05話Puls 異能者達のディスコード17 - 現状
第05話Puls 異能者達のディスコード17 - 現状
「ここからは俺の想像だが。この実験は君の独断で行ったものだろう? 動機は出世なのか、それとも祖国の勝利のためか……それはわからないが、君は敵地において画期的な戦力増加を図るための手段を思いつき、それを実証しようと実験を繰り返した。しかし、何度も実験を繰り返し続けたが、結果は一進一退を続けるばかりで一向に実用化できる目処がたたない。そこで、有力そうな被験体を魔法で封印し、ある程度の数を揃えたところで、なんとか成果として報告するつもりだった。違うか?」
俺は現状から推測できることを理に則って話してやる。
「……そう……です」
非常に言いにくそうではあったが、それでもノラは俺の言葉を認めた。
「だが、今のを見ただろう? あの無秩序極まる攻撃を。ただ俺に無闇やたらと攻撃を繰り返すばかりで、戦術も連携もない。挙句の果てに、勝手に力尽きて自滅する者まで多数いた。俺が一人だからとかいう問題ではない。はっきりと言わせてもらう。これは、軍としては機能していないただのポンコツの集まりだ。こんなものを実戦に投入すれば、余計な混乱を招くばかりで、自軍にとって致命的な弱点となるだろう。あんたの実験に未来はないよ。早々にあきらめることがあんたのためだ。おとなしく自分の世界に帰って、二度とこっちの世界にはくるな」
一切脅してはいないが、俺は徹底的にノラを追い込んでやった。
それに、これは自分の失敗が招いた結果であるので、ノラは反論したくても出来ないでいることも承知のうえでである。
「……それでも……まだ……」
まるで急速に年を取ってしまったかのようなかすれた声で、ノラは反論しようとした。
でも、言葉は続かない。
続くわけがない。
自分でも、とっくに気づいていたのだ。
ただ、諦めきれない未練が、自分の犯した過ちを認めたくないという妄念が、そのことに気づかないフリをさせていただけのこと。
俺はその薄い皮を引剥してやった。
そして今、現実という膿が溢れだしている。
「俺は、これ以上あんたに何もするつもりはない。あんたは、ただ自分の世界に帰ってくれ。そして、二度とこっちの世界にこないでくれると文章で確約してくれればいい。ただそれだけだ」
俺は、出来る限りやさしく言ってやる。
文章にすることを求めたのは、万が一ノラの代わりに別のやつがやって来たときのための保険である。
「……れません……」
ノラが何かつぶやいたが、うまく聞き取れなかった。