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第02話 VSヴァンパイア!-01 - 影響

 ルーファとシリンが俺の家に住み着いた直後に起こったことの顛末に関しては、詳しく説明する気にはなれない。

 彼女たちだけでなく、大量の招かざる客も共にやってきて、駆除するためにかなり苦労を強いられることになった。

 要するに、野良猫――それも大型の――を二匹拾ってきたようなもので、保健局員が調べれば速攻アウトな状態であったとだけ言っておく。

 父親は帰国予定のない海外勤務で、母親はずっと以前に死んでいたから、家には俺以外住んでいない。

 こいつらのために帰還後ネットで注文していた服を受け取らせるために、ハンコの押し方だけをレクチャーして俺はそのまま登校した。

 事あるごとに狭い狭いとやたらと連発していたが、それでも文明の利器には興味があるらしく、何を見ても驚いていた。

 とにかく、PCだけには手を触れないように強く言い含めておいたが、果たして守るかどうかは確信が持てない。

 できれば、外にでていって二度と帰って来なければ、すべての問題が一気に解決するのだが……さすがにそれは、希望的観測すぎるだろう。


「よう。疲れた顔してんな? 昨日、あれからどうなったんだよ?」


 休み時間になってすぐに、斉藤が話しかけてくる。


「拉致されて、ひでぇ目に合わされた」


 俺が端的に説明すると。


「拉致って……。なんか、ピカピカ光った後、気がついたら急にいなくなってたんだぞ、おめぇ」


 そこまで言った後、斉藤は何か思いついたらしく、手を打って俺の顔をじっと見つめる。


「もしかして、おめぇって何処かの国のエージェント的なあれ……」


 さらにじっと見つめた後、結論を出す。


「ってこたぁないよな……。英語46点だし」


 俺的には反論できなかった。

 確かに、英語の試験が46点ではどこの国のエージェントも無理そうな気がする。


「で、俺の方はいいとして。お前の方はどうだったんだよ?」


 はっきり言って、俺にとっては、異世界に拉致されたことより遥かに重要なことである。

 すると、斉藤はどこか遠くを見ながら、思い出を語る老人のような悟りきった表情で語りだす。


「あれは、若き日の遠い思い出じゃて。わしの夢があっさりと、打ち砕かれることになるとはのぉ……」


 この時俺は、斉藤がみごとに玉砕したことを知ったのである。


「で、次はいつだ?」


 たとえ玉砕したところで、それは最初から分かっていたこと。

 要するに、その場の空気を知っておけば、高校生から大学生へとクラスチェンジを果たした暁には、かならずそのことが役に立つはず。

 それが俺の計算であったのだ。

 だが、斉藤は俺の質問には答えず、俺の背後を見ていた。


「次はっていうか……そんなことより、後ろ見てみろよ。とんでもない美女が二人もいるぞ。しかも、ガイジンさんだぜ。うちの生徒……のわけないよな……うわっこっちくるぞ?」


 よだれでも垂らしそうな勢いで、斉藤が俺の背後を見ている。


「なるほど、そうくるか……」


 俺はため息と共にそう漏らした。

 いやというほど心当たりがあったので、わざわざ振り返ったりしない。


「ようやく見つけました、ナルセ」


 最初に聞こえてきたのは、ルーファの声だった。


「ホントにナルセは不親切に過ぎるぜ。年頃の乙女二人をほったらかしにしたまま、こんな所になんの用なんだよ?」


 こっちの都合など、一切お構いなしに苦情を言ってきたのはシリンである。

 色々説明をすべきなのは承知しているが、高校とか大学とか、ましてや受験制度というものがいかなるものであるのか、というような所から説明などするつもりはなかった。

 こう見えても俺は、受験生なのである。

 異世界から勝手ついてきた迷惑極まりない居候など、相手にしている暇わない。


「ナルセはここにはいない。とっとと帰れ」


 俺は振り返りもせず、不機嫌さを露わにして言った。

 ちなみに、帰れとは言ったが俺の家にとは言っていない。

 どこに帰ろうと、それはこいつらの勝手である。


「はぁ? そういうこと言うわけ?」


 俺以上に不機嫌そうに反応したのはシリンであった。


「まぁまぁ。とりあえず、ここは冷静になりましょう」


 諭すように割って入ったのは、ルーファである。

 だが、問題なのはそんなことではない。

 異世界の住人の、しかもエルフにこの場の空気を読めというのは酷な話なのだと思う。

 それでも、教室の中がざわめいて、しかもあからさまに好機な視線を集めていることくらいは察してもらいたいものである。


「はっ。冷静だって? あたしは十分冷静だよ」


 冷静という意味に挑戦しそうな勢いでシリンが答える。


「なぁ、鳴瀬。この超美人のお嬢さん達とどういう関係だよ? そんで、なんて言ってんの?」


 机を挟んで俺の正面の席に座っている斉藤が聞いてくる。

 俺は言語を介さずに直接意味を理解しているのでまったく支障はない。

 斉藤は知らない国の言葉を聞いていることになるので、ルーファとシリンが何を言っているのか理解できないのだ。

 とまぁ、あまりに当然すぎる質問なので、俺は簡単に説明だけする。


「こいつらは、資源ゴミみたいなもんだ。何言ってようが、気にする必要はない」


 捨てたいと思っていても、簡単には捨てられない厄介な二人である。

 将来的には使えるようになるかも知れない、という可能性はあるにしても相当の手間が必要になる。

 そして、俺のように真面目な受験生にとっては、手間をかけられるだけの時間的な余裕がなかった。


「ちょっと、あんた! 今、あたし達のことゴミって言ったでしょ? 一体、それってどういう意味よ?」


 シリンが俺の正面に回って言った。

 ちなみに、元正面にいた男は床の上に転がっている。


「わたしも、聞きたいですわね?」


 背後霊のように俺の背中の方に立ってルーファが言う。

 俺としては少々鬱陶しかったが、とりあえずこの二人の間違いを正しておくことにする。


「俺はゴミとは言っていない。資源ゴミのような物だと言ったんだ」


 俺のセフリに真っ先に反応したのは、俺の前と後ろにいる異世界美女二人ではなく、床の上に転がされた斉藤であった。


「それって、どこが違うんだよ?」


 斉藤が言ったことの意味が理解できているわけではないだろうが、それに続いてルーファとシリンの二人もすぐに似たようなことを言う。


「どっちも、ゴミ言ってるじゃないか!」


 これは、シリンのセリフ。


「資源って付けても、ゴミ扱いしてますよね?」


 こっちは、ルーファの言である。

 俺自信は的確なたとえだと思ったのだが、どちらかというと不評のようだ。

 まぁいい。

 俺としては、ゴミに対してそれほど思い入れはない。


「ゴミにそんなに興味があるなら寺田さんの家の前に立っていればいい。明日の朝には回収車がやってくるぞ」


 こう見えても俺はとても親切な男なので、貴重な情報を伝えてやった。


「はぁ? バカにしてんの!? そんな情報いらないわよ!」


 シリンが吠えるようにそんなことを言ったので、なおさら目立ってしまう。だが、クラスメイトの注目が集まらないのは、下手に関わり合いにはなりたくないという自己防衛本能が働いているからだ。もっとも、この教室のなかで一番強くそう思っているのは俺だという自信はあったのだが。


「そうか。用がすんだんなら、今すぐ帰ってくれ。迷惑だ」


 おれはシリンの顔を見ながら校庭側の窓を指さしてはっきりと言ってやる。

 できれば放り出したいところなのだが、そんなことをすれば俺の評判に傷がつくのは確実なので、いたって穏やかなやり方で説得を試みる。


「私達は、ゴミのことを知りたくときたわけじゃありません!」


 俺の背後から、なんなら食い気味にルーファが俺の説得を否定する。


「だったらなんだ? 見た目が可愛いからと言って、他人に迷惑をかけていいわけじゃないぞ?」


 たとえ相手が発展途上世界からやってきたエルフだからと言って、さほど見下したりはせずに、俺は道理を持って説得を試みる。

 我ながら、実に大人な対応であった。

 ところが。


「迷惑じゃねぇぞ。っていうか、大歓迎だ!」


 いきなり横槍が入る。床の上に転がったままの斉藤であった。ちなみに、なぜ転がったままなのかは、その視線の先を追っていくことで理解可能である。シリンの着ている服が短めのスカートでなければ、違う対応になっていたことだろう。

 ちなみに、俺のクラスのほぼ反芻が斉藤の意見に同調したらしく、うんうんと頷いていた。

 それと、俺のクラスの半数は男子であるという事実は、補足しておく必要があるだろう。

 ただまぁ、斉藤の意見は意見として理解できないわけではないが、かといってこいつらのように目先の欲望に目が眩んだりするような底の浅い男ではないので、俺はこの状況を解決するための方法を検討してみることにする。


「……」


 俺がしばしの間考えてみようと天井を見上げた時だった。


「ああ、もういいです。ようするに、こういうことです!」


 それまで比較的穏やかに見えていたルーファが、いきなりキレる。

 ルーファの中の力が膨れ上がるのを感じたと同時に、俺に抱きついてきた。

 何がやりたいのか分からないので、そのまま放置していると机の向かい側にいたシリンも俺の首に手を回すような感じで抱きついてくる。

 俺がとりあえず苦情の一つも言ってやろうかと考えていると……世界が変わった。


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