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第二話 乙女の笑顔は太陽の様に

 久し振りに更新します。

 1941年12月1日、第一独立機動艦隊は真・八八艦隊との合流を果たした。南雲大将は航空戦艦大和に向かっている。

 扶桑は暇でしょうがないので、久し振りに小沢長官の所へ行こうと考えていた。

 扶桑と小沢の出会いは意外と最近の事だ。1939年、戦略戦艦に名を変えた時、視察に来た小沢と出会ったのだ。

 その時既に小沢は大将に昇格していたが、今までの軍人と違い二等兵に対しても、礼儀を欠けなかった。

 そんな小沢を見て扶桑は、この人の下で戦っていきたいと考えたが、自分は旧式艦だ。連合艦隊司令長官が乗る旗艦に成るなど、万に一つ無かった。


 しかし、転機は予想もせずにやって来た。

 1941年3月、『真・八八艦隊計画』とそれに伴う『独立機動艦隊計画』に乗っ取り、扶桑は陸軍の上陸部隊を無事目的地に運搬し、支援砲撃を行う『強襲揚陸戦艦』へと改装された。

 前年の1939年8月から、軍令部は荒れていた。

 艦艇補充計画に乗っ取り完成した『140―A』型戦艦の船体を巡って、艦隊計画が追加で2つ提出された。それが波紋を呼んだ。

 3つの計画にそれぞれ大物が推薦人として付いたからだ。

 南雲忠一大将と井上成美中将(現第五独立機動艦隊司令長官・階級大将)は『マル5艦隊計画』(通称『新・八八艦隊計画』)を推進、近藤信竹中将(現真・八八艦隊直属第一水雷戦隊司令官)と杉山六蔵中将(現第四独立機動艦隊副司令)は『マル4艦隊計画』(通称『改・八八艦隊計画』)を推進、米内光政大臣と山本五十六内閣総理大臣、そしてなんと陸軍大臣東條英樹大将は『マル6艦隊計画』(通称『真・八八艦隊計画』)を推進した。

 見事バラバラな上に、陸軍も介入したため決定は困難を極めた。

 艦魂参謀本部でも議論が激化した。

 戦艦長門大将と陸奥大将、そして航空戦艦伊勢中将と日向中将は『マル5艦隊計画』を支持、戦艦金剛中将、比叡中将、榛名中将、霧島中将は『マル4艦隊計画』を半ば強硬に推薦、空母赤城大将と天城大将が『マル6艦隊計画』を支持した。軍令部同様、艦魂参謀本部は荒れた。

 ここで簡単に各艦隊計画を見てみよう。

 『マル4艦隊計画』は、大和型戦艦九隻(大和型四・改大和型二・超大和型三)を主体に、巡洋戦艦八隻、重巡洋艦十隻、軽巡洋艦六隻、潜水艦十六隻と、まさしく『八八艦隊計画』を改良した物だった。

 『マル5艦隊計画』は、大鳳型空母四隻、赤城型空母四隻(追加二隻)、加賀型空母四隻、雲龍型空母十二隻、防空軽巡洋艦二四隻、防空駆逐艦四十隻と、機動艦隊構想の最高峰とも言える計画であった。

 『マル6艦隊計画』は、大和型航空戦艦四隻、長門型戦艦四隻(追加二隻)、赤城型空母四隻(追加二隻)、加賀型空母四隻、雲龍型空母八隻、防空軽巡洋艦三二隻、防空駆逐艦四十隻、伊号特潜四隻と、比較的均衡の取れた計画だった。

 各計画の主な艦艇のスペックは次の通りだ。

 改大和型は51㎝連装砲3基、20.3㎝3連装副砲4基を搭載し、超大和型では副砲を10.5㎝連装高角砲に転換している。

 大鳳型空母は、高角砲と機銃は通常空母と変わらないが、艦載機数が125機と赤城以上になっている。改赤城型とも呼ばれる。

 加賀型空母は、赤城型より一回り小さい空母だがスペック的には大差はない。

 雲龍型空母は、量産型中型空母であり、アメリカ海軍のエセックス級空母に対抗して計画されている。

 伊号特潜は、攻撃機艦載可能な潜水空母で、世界のあらゆる海域に出撃ができる。 

 激化する海軍内だったが、沈静化する動きは一切見えない。互いに譲り合わないのだ。

 年が明ける前に決めなければ、来るべき対米戦に間に合わなくなる。誰もが感じていた。しかし、引くに引けなかった。

 同年10月、扶桑に1人の訪問者が現れた。

 小沢治三郎連合艦隊司令長官その人だった。

 小沢は言った。

――このまま、上層部がバラバラだと、国家の安全保障が危うくなる。軍令部は俺がなんとかするから艦参(艦魂参謀本部)は扶桑、お前に頼みたい。

 扶桑は驚いて、

――そんな、自分にそんな大役勤まりません。

 と答えた。しかし

――お前だけが頼りなんだ。頼む!

 頭まで下げられ、扶桑は折れずにはいられなかった。

 3日後、小沢は軍令部に折衷案を提出、改大和型と超大和型は中止するがそれに匹敵する超ド級戦艦を建造する事、雲龍型空母の建造を最優先する事等を盛り込み、『140―A』型戦艦を航空戦艦にする事を認めさせた。

 扶桑の方も同じような状況だったが、金剛が噛み付いた為、人生で初めて彼女は怒鳴った。

扶桑「国家存亡の危機に、これ以上時間を引き延ばすのは、敵に利するのみです!中将、子供の様に喚くのは、止めて頂きたい!」

 古参としての威厳を、そして彼女の国を守る心の一部を見せた、最初で最後の時だった。



 あれから2年、それ以来だった小沢長官に伝えたい事が出来た。

 第一独立機動艦隊旗艦扶桑の副艦長兼戦略参謀長、赤坂さんの事を・・・


「お姉さま、どうなされたのですか?」

 背後から声を掛けたのは、戦略戦艦扶桑型2番艦『山城』の艦魂、山城だった。

扶桑「山城、今から小沢長官の所へ行って参りますので、留守中宜しくお願いしますね。」

山城「それは宜しいですが・・・お姉さま?」

扶桑「何ですか?」

山城「何か、嬉しい事が在りましたか?」

扶桑「ふふふ、何でもないですよ。」

 そう言って扶桑は光に包まれ転移して行った。

山城「・・・お姉さまも嘘が下手ですね。あんな笑顔のお姉さま、久し振りに見ました。」

 そして彼女も転移して行った。



 航空戦艦大和 長官室

 扶桑は長官室に直接転移した。目の前の2人―小沢長官と南雲大将―は自分に気付いていない。

南雲「・・・しかし、強襲揚陸戦艦とは、突拍子の無いものを。」

 それを聞いて彼女はわざとらしく言った。

扶桑「あら長官、それは私が変わり者に聞こえますが?」

南雲「何、俺も十分変わり者だ。変わり者には変わり者が合うだろ?」

 振り向きもせずに南雲大将は言った。

扶桑「ふふふ、そうですわね。私も長官も変わり者ですものね。」

小沢「久し振りだな、扶桑。」

 2年前と変わらず、優しい声で話し掛けてきた小沢長官を見て、扶桑は敬礼した。

扶桑「お久し振りです、小沢長官。」

小沢「その長官と言うの、止めてくれないか。どうも慣れない。」

 階級を重く見ない彼の平等な考えにも、惹かれたものだった。

扶桑「申し訳ありません。しかし私は少将、長官は大将です。規則なので仕方ありません。」

小沢「年功序列ではなく、直接任命された俺には、大将は荷が重すぎるよ。」

南雲「そうだな。所で扶桑、お前なんだか嬉しそうだな?」

扶桑「分かりましたか。実はですね・・・」

 今までの事を2人に話した。

南雲「ほう、赤坂君がね。しかし、また何でそんなに嬉しいんだ?」

 その南雲が訊くと、扶桑は満面の笑みで、

扶桑「今まで、艦長以外見える人いなかったんですよ。他にも見える人が居るって、とても嬉しいんです。」

 と答えた。

 南雲はこの日の日記に『太陽の様な笑顔だった』と記しているが、一体誰のことなのか今日でも分かっていない。

 次回は早めになると思います。

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