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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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蝋燭街

作者: 東風方 胡蝶


 羸痩とし、眼光の炯炯とした老人はただそれだけ三度ばかりぼそりと言った。余りの突然であり、また、突飛なことであったので、私は傾聴すらせず、哂笑で以って一蹴した。

 白夜のこの街では今、祭の最中だ。今日は初夜ということもあり、皆酒を飲んだり踊ったりと、祭を謳歌している様であった。私も一献酒を頂戴し、一気に仰いでみせる。辺りでどっと歓声が上がり、この街に来たばかりである私を漸く歓迎してくれたらしく、蹇産した気分から解放された気がした。やはりあの老人はただの気違いか。

 仄聞しただけであるが、この祭は一週間に渡り執り行われるらしく、最終日にもなると困憊して了い、翌日から二日程、店の営業は殆ど無いとか。この街に来て早々、一週間後に迫る食料危機を危惧せねばなるまい。最終日には暴飲暴食と迄は行かずとも、二日程度凌げる量を食べておくことにしよう。如何せん、この街は極寒であり、動もすると凍死し兼ねないので。

 徐に馥気が漂い始めた。肉でも焼いているのか、腹を空かせた者は群集し、そこで何か良く解らぬ事を喚いている。儀式か何かか。つい先刻の老人の言葉がふと脳裏を過ぎったが、束の間のうちに喧騒に消え去った。私は未だ腹が減っていない為、酒をもう暫く飲み乍ら舞踏の観覧に徹することにする。 幾許か経ったろう。私はどうも眠って終っていた様である。今は黎明時と言ったところか、辺りは全然静寂に包まれている。

 藐然の鳩の嘯く。幽韻ではあったが、それが妙に嫌に響き、吃驚して了った我が怯懦に、嫌気を感じずには居られなかった。

 俄に怒号に近いそれが随所から発せられる。祭が再開したのであろうか、辺りのものが蠢動し始める。聞くと、鳩の声が暁の合図だとか。流石、寝ずに、と言ったことでは無いのか、と、何故か至極安堵を覚えた。

 二日目ともなるとやはり、前日飲み過ぎた者も多数おる為か、前日程の活気は無く思える。かと思えば頓に活気が戻った。花火をあげて始めた様だ。日本人である私は花火は至当夏の夜に行われるものであると思っていたが、どうやらこの街ではそうでは無いらしい。

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