第2話「その拍手、誰の努力で鳴ってると思ってる」
眠れなかった。
王宮が用意した客室は、ベッドも枕も元の世界のビジネスホテルより上等だった。壁にはタペストリーが掛かり、窓枠には金の装飾が走り、天井には何かの紋様が薄く光っている。召喚された勇者一行への歓待にしては末席の部屋なのだろうが、十七年間の人生で一番広い個室だった。
それでも、眠れなかった。
目を閉じるたびに、宴の広間で見たものが瞼の裏に蘇る。
天井にまで届く、巨大な透明の文字列。【主人公補正】。あれがレオの背後で脈動していた。広間の空気を、人の視線を、拍手の向きを——全部、あの男の方へ引きずり込む引力装置のように。
寝返りを打つたびに、ハリセンが枕元でがさりと音を立てた。
紙と竹。文化祭の前夜に図工室で組み立てた張りぼて。こんなものが異世界で具現化する意味なんて、たぶん鑑定官のおっさんにも分からなかったし、俺にも分からない。
ただ、手放す気にはならなかった。
朝が来た。
窓の外が白んでいく。鳥の声ではなく、甲冑の金属音と号令が遠くから聞こえる。異世界の朝は、軍靴の音で始まるらしい。
顔を洗う。水は冷たかった。桶から手ですくう方式で、蛇口もシャワーもない。制服のシャツの皺を手で伸ばし、ズボンの裾を折り直す。異世界の服はまだ支給されていない。勇者パーティの正式装備は今日の訓練後に採寸するとか昨夜の侍従が言っていたが、末席の余り物にまで順番が回ってくるかは怪しい。
ハリセンを右手に持ち、部屋を出る。
石造りの廊下を歩く。すれ違う侍従や兵士が、俺の手元を見て二度見した。そりゃそうだ。異世界の王宮でハリセンを持ち歩く人間は、五百年の歴史でも初だろう。
廊下の突き当たりに、昨日の広間へ続く扉が見えた。その手前を右に折れると、中庭を挟んで騎士訓練場がある——と、昨夜の侍従が地図をくれた。くれたというか、「訓練は朝の第三鐘です。遅刻なさいませんよう」と事務的に渡された。
第三鐘。まだ少し時間がある。
中庭へ出た。冷たい空気が頬を叩く。石畳の上に朝露が光っていて、異世界の朝はやけに透明度が高い。空は薄い青。雲は少ない。太陽は元の世界より若干白っぽく見えた。
空を見上げる。
昨夜の宴で見た、あの透明な文字列は——今は見えない。レオのそばにいないからか。それとも場面が違うからか。分からない。分からないことだらけだ。
中庭の向こうに、土と砂利で整地された広い空間が見えた。騎士訓練場。既に何人かの兵士が準備運動をしている。木製の訓練用ダミーが一列に並び、端には鉄柵で囲われた区画がある。
その鉄柵の中で、何かが唸っていた。
低い、獣のような音。訓練用の魔物か。柵の隙間から赤い目が光った気がしたが、すぐに視線を外す。あれと戦えと言われたら、ハリセンでどうにかなる気は全くしない。
鐘が鳴った。三回。
訓練場に人が集まり始める。
*
騎士団長が、訓練場の中央に立っていた。
ガルド・ヴァレンハイト。昨夜の宴で腕を組んで壁際にいた、刀傷だらけの大男だ。灰色混じりの短髪。重装鎧。声は低く、よく通る。
「今日は勇者パーティの初合同訓練だ。基本連携の確認、避難誘導の手順、陣形維持と後退のタイミング。実戦では華麗な一撃より、こういう地味な手順が生死を分ける。まずは——」
「団長、それ座学じゃん。せっかくだから実技やろうよ」
レオの声が割り込んだ。
訓練場の空気が、一瞬で変わった。
正確には——空気が「動いた」。視線が、騎士団長の方からレオの方へ、磁石に引かれるように流れた。全員じゃない。でも、七割くらいの人間の目が、レオの立ち位置に吸い寄せられている。
見えた。
レオの周囲に、昨日の【主人公補正】より一回り小さい文字列が浮いている。透明で、空中に貼りついたステッカーみたいに。
——【注目誘導】。
また新しいのが出てきた。
ガルド団長が口を開きかけて、閉じた。刀傷の走る顔に浮かんだ表情は——渋面、だと思う。本来の訓練メニューを崩されたことへの不満が、一瞬だけ眉間に出た。だが次の瞬間には「……よかろう。では実技から入る。訓練用の魔物を放つ。連携を見せてくれ」と切り替えていた。
切り替えが早い。早すぎる。
あの団長は、昨夜の宴でもレオに直接は何も言わなかった。軍人として命令系統に従う人間だとは思うが、それにしても——自分の訓練メニューをあっさり譲るのは、叩き上げの武人にしては不自然じゃないか。
【注目誘導】のラベルが、訓練場の空気をゆっくりと侵食しているように見えた。
*
訓練が始まった。
鉄柵が開き、訓練用の魔物が三体放たれる。犬を二回りほど大きくしたような黒い獣。牙が光っていて、目が赤い。背中に何か紋様が刻まれていた。たぶん制御用の術式だろう。
パーティの前衛二人が盾を構えて前に出る。名前はまだ知らない。重装の男と、やや軽装の女性騎士。どちらも動きは手慣れていて、体格にも鎧にも年季が入っている。王国の正規軍から選抜された連中だ。
斥候が横に展開する。これも名前を知らない。フードを目深に被った痩身の男。
そして、レオが中央に立っていた。
訓練用の剣を手にしている。聖剣はまだ授与されていないから、木製の柄に鉄の刃を付けた練習剣だ。だが、レオの構え方には一種の華がある。肩を開き、腰を落とし、剣先を正面に向ける。
剣が、光った。
文字通り、光属性のスキルが剣に宿って淡い金色の輝きを纏った。訓練場にいた騎士の一人が「おお」と声を漏らす。
「いくぞ!」
レオが踏み込む。
速い。元の世界でも運動神経の塊だった男に、異世界の祝福が上乗せされている。一体目の獣の懐に一息で入り込み、光を帯びた剣で横薙ぎに斬る。獣は弾き飛ばされ、砂煙を上げて転がった。致命傷ではない。訓練用だ。でも、絵面は派手だった。
二体目に向き直る。
ここでレオは——連携を無視した。
前衛の二人が左右から挟み込む陣形を取ろうとしていたのに、レオは単独で正面から突っ込んだ。斥候が側面から牽制を入れようとした動きも完全に見えていない。
剣を大きく振りかぶり、縦一閃。光の軌跡が弧を描く。
派手だ。
本当に、派手だ。
だが——俺の目は別のものを追っていた。
*
訓練場の端。
石造りの観覧壁の下に、一人の女が立っていた。
銀灰色の長い髪を低い位置で一つに束ね、濃紺のローブに灰色のコートを羽織っている。細縁の銀フレーム眼鏡の奥で、翡翠色の瞳が訓練場全体を走査するように動いている。
左手首に、何か装置が巻かれていた。小さな板状の端末。その表面に、微細な光の線がいくつも走っている。
彼女の右手が、宙を切った。
指先が何かの紋様を描く。そのたびに、訓練場の空気が微かに震えた——気がした。いや、気がしたんじゃない。
俺の足元の砂利が、一瞬だけ浮いた。
浮いて、落ちた。誰も気づいていない。レオの剣技に目を奪われている連中は、足元の砂利なんか見ていない。
だが、俺はしゃがんでいた。パーティの末端の雑用。訓練に参加する武器も技もない余り物は、訓練場の隅でしゃがんで見ているしかない。だから足元がよく見える。
もう一度、空気が震えた。
今度は方向が分かった。レオの剣が獣を叩いた衝撃——光属性の余波が、訓練場の左端に向かって飛んだ。そこには木製のダミーが並んでいて、その後ろに数人の騎士が控えている。
余波が届く前に、薄い膜が光った。
一瞬だけ。本当に一瞬だけ、空気の色が変わった。淡い青——いや、ほとんど透明に近い薄膜が余波を受け止め、拡散させ、消した。
騎士たちは気づいていない。レオも気づいていない。ガルド団長は——分からない。あの男の表情は鎧越しでは読みにくい。
膜が出現した方角を目で追った。
端。銀灰色の髪の女。
彼女の右手の指先が、ゆっくりと下ろされるところだった。
*
俺は、訓練が終わるまでずっと彼女を見ていた。
レオが三体の獣を全て倒し終えるまでの間に、彼女が行った「仕事」を、見える範囲で数えた。
衝撃波の偏向。四回。
レオの斬撃が予定外の方向に飛ぶたびに、薄い膜が現れて軌道を逸らした。本人も見物客も気づかない精度で。
安全結界の微調整。少なくとも三回。
訓練用の獣が柵の外に出そうになるたびに、足元に光の紋様が走って進路を修正していた。獣自身が自分で方向を変えたように見えるくらい自然だった。
そして——訓練場全体の魔力の流れの制御。
これは回数では数えられない。彼女の左手首の端末は、訓練の間ずっと光り続けていた。何かを記録しているのか、何かを計測しているのか。ときどき翡翠色の瞳が端末に落ち、すぐに訓練場に戻る。その反復が、ほぼ途切れなかった。
一人で、全部やっている。
レオの派手な剣技が「見せ場」として成立するために必要な裏方の全工程を、この女が一人で回していた。
暴走防止。飛散防御。動線制御。
それを、誰にも気づかれないように。
*
訓練が終わった。
レオが剣を肩に担ぎ、大きく息をついた。額に汗は浮いているが、笑顔だった。三体の獣は全て地面に転がり、制御紋様が赤く点滅して動きを止めている。
拍手が起きた。
騎士たちが手を叩いている。訓練場の端で見ていた侍従たちまでが、レオの方を向いて拍手している。前衛の二人と斥候も、剣を収めてレオの方へ歩み寄る。「さすがです、勇者様」。
「いやー、体が勝手に動くっていうか。この世界の力、最高だな」
レオが笑う。その笑顔に悪意はない。本当にない。こいつは純粋に、自分が全部やったと思っている。
ガルド団長が歩み寄り、「見事だ」と短く言った。ただ、その目は一瞬だけ訓練場の端——あの女がいた方向——を見た。気がした。確信はない。
拍手が続いている。
レオの周囲に浮いた【注目誘導】のラベルが、ゆっくりと脈動していた。
俺は、訓練場の端を見た。
銀灰色の髪の女は、もう結界や偏向の術式を展開していなかった。端末の光は消え、右手は下ろされている。
彼女は無表情だった。
拍手の音が訓練場に広がる中で、彼女は黙って端末を左手首から外し、ローブのポケットにしまい、訓練場の片付けを始めていた。獣が暴れた区画の柵を直し、砂利の乱れを足で均している。
拍手の輪の外で、一人だけ、後片付けをしている。
——馬鹿だろ。
その言葉が、喉の奥から浮いてきた。
馬鹿だろ。全員。
誰に怒りを向ければいいのか分からなかった。レオか。拍手している騎士たちか。この世界そのものか。
でも、一つだけ分かることがあった。
さっきの訓練が事故も怪我もなく終わった理由は、レオの剣技じゃない。
*
立ち上がっていた。
いつ膝を伸ばしたのか、自分でも分からない。気づいたときには砂利を踏んで立っていて、口が開いていた。
考えてから喋ったんじゃない。喉が先に動いた。元の世界でもそうだった。教室で、部活で、文化祭の準備で。空気を読めと言われるたびに、読んだ上で壊す方を選んできた。
「さっきの訓練、安全に終われたのは全部あの魔術師の制御のおかげだろ」
拍手が止まった。
止まり方が、面白いくらいきれいだった。一人が止め、隣が止め、波紋みたいに沈黙が広がる。最後まで叩いていた侍従が、自分の手の音だけが響いていることに気づいて慌てて引っ込めた。
全員がこっちを見ている。
「なんで誰もそっちに拍手しないんだ」
沈黙が、粘度を持った。
俺は自分が何をしているか分かっている。昨日の宴と同じだ。場の空気を壊している。歓迎の流れをぶった切り、全員が気持ちよくレオを称えている最中に、水を差している。
それでも。
「衝撃波が四回飛んだ。全部、あの人が偏向させてた。獣が柵の外に出そうになったのも三回。全部、足元の術式で止めてた。レオ先輩の剣が光ってる間、ずっとだ」
具体的に言った。何回。どの場面で。何が起きていたか。
曖昧に「功績を認めろ」と言っても伝わらない。数字と事実を並べる。元の世界で学んだ数少ないことの一つだ。感情だけで物を言うと「嫉妬」で処理される。
レオが、首を傾げた。
本当に——不思議そうに。
「え? リネットはサポートだろ?」
あの女の名前が出た。リネット。
「サポートなんだから上手くやって当然じゃん。それが役割なんだし。でも見せ場を作れるのは俺だけだ。そこが違うとこだろ?」
レオの声には悪意がなかった。
だからこそ——最悪だった。
こいつは嘘をついていない。嫌がらせをしているわけでもない。本心から、サポートが上手くいくのは「当然」で、それに拍手する理由が分からないと思っている。
俺の声が出る前に、場の空気が動いた。
「召喚者殿、それは些か……」
廷臣の一人が口を開いた。初老の男。声に棘がある。
「勇者様のお力を目の当たりにして、嫉妬されるお気持ちは分からなくはありませんが」
嫉妬。
来た。昨日から予想していた言葉だ。
「訓練場で勇者様のお手柄に水を差すのは、いかがなものかと」
別の廷臣が続いた。同じトーン。同じ結論。まるで台本をなぞるように。
周囲の騎士たちの目が変わった。昨日の宴で「余り物」だった男が、今度は「空気を読めない厄介者」に格下げされていくのが、視線の温度で分かる。
その視線の中で——一つだけ、違う方向の目があった。
訓練場の端。
リネットと呼ばれた女が、こちらを見ていた。
ほんの一瞬。翡翠色の瞳が俺を捉えて、すぐに外れた。表情は読めなかった。無表情のまま、片付けの手を止めない。
ただ——その一瞬、指先が止まっていた。柵を直す手が、ほんの一拍だけ。
ガルド団長が前に出た。
「訓練は以上だ。パーティ各員は午後の作戦確認に備えろ。——召喚者の乾、少し残れ」
声は平坦だった。叱るでもなく、庇うでもなく。ただ「ここで終わりにする」という一線だけを引く声。
レオはもう俺のことを見ていなかった。前衛二人と何か話しながら訓練場を出ていく。その背中に廷臣たちが群がり、騎士たちが続く。
拍手の余韻が、砂利の上に残っていた。
*
団長と二人きりになった——わけでもなかった。
ガルドは「残れ」と言っただけで、特に説教をする気配もなかった。腕を組み、訓練場の中央に立ち、獣が暴れた跡の砂利を眺めている。
「……お前の目は悪くない」
低い声で、それだけ言った。
「だが、見えていることと、それをどこで言うかは別の話だ」
返す言葉を探す前に、団長は背を向けて歩き去った。重装鎧が砂利を踏む音だけが残る。
何だったんだ、今の。
褒められたのか。窘められたのか。
たぶん——両方だ。
訓練場に一人残された。いや、一人じゃなかった。
端で片付けをしていた銀灰色の髪の女——リネットが、まだいた。
柵の最後の一本を直し終えて、灰色のコートの裾を払っている。端末はポケットにしまったまま。こちらには一度も視線を向けない。
足が動いた。
砂利を踏む音が響く。訓練場は広い。端まで二十歩はある。
十五歩。
十歩。
五歩。
リネットが柵から手を離し、身体の向きを変えた。訓練場の出口に向かって歩き始める。すれ違いの角度。
そのまま行くのだと思った。
三歩の距離を通り過ぎる瞬間——
「……気づく人がいるとは思わなかった」
声は小さかった。
立ち止まりもしなかった。歩きながら、横顔だけをこちらに向けて、それだけ言った。
平坦な声。冷静で、感情を出さない話し方。
でも。
語尾が、ほんの少しだけ揺れた。
リネットはそのまま訓練場を出ていった。灰色のコートが石の柱の向こうに消える。最後に見えたのは、端末をしまったローブのポケットの辺りを、反対の手で一度だけ押さえた仕草。
確かめるみたいに。
何かを、記録し終えたことを。
*
訓練場に一人、立っていた。
空は高い。朝の冷たさが少しだけ緩んで、陽光が砂利を白く照らしている。
俺がさっき言ったことは——たぶん、正しかった。
でも正しいだけで何かが変わるなら、元の世界でとっくに変わっている。
右手のハリセンを見下ろす。紙と竹。文化祭の残骸。この世界で唯一、俺のものだと言えるもの。
昨夜見えた【主人公補正】。今朝見えた【注目誘導】。
俺にだけ見える、この世界の裏側の文字列。
あれが何なのか。なぜ俺に見えるのか。何ができるのか。
何一つ分からない。
分かっているのは——この世界が、あいつのために歪んでいること。
そして、それに気づいている人間が、俺だけじゃなかったこと。
——気づく人がいるとは思わなかった。
あの声が、訓練場の乾いた空気の中で、まだ耳に残っていた。
*
午後。
作戦確認の召集がかかると聞いていたが、実際に呼ばれたのは夕刻だった。
場所は王宮の一室。長机の上に地図が広げられ、騎士の一人が指し棒を持って何か説明している。レオは地図の前に座り、前衛の二人と斥候が周囲を固めている。
リネットは部屋の隅にいた。椅子に座り、例の端末を膝に載せて、何かを操作している。会議の内容を聞いているのかいないのか——いや、端末の画面にときどき視線を落としながらも、説明の要所では顔を上げていたから、たぶん両方やっている。
俺はドア際だった。椅子は余っていなかった。
説明の内容は、こうだ。
辺境の村が魔物に襲われている。村の名前はエルデン。王都から馬車で二日の距離。勇者パーティの初任務として、明朝出発。
「被害状況は?」
リネットの声が、部屋の隅から飛んだ。
説明していた騎士が一瞬だけ戸惑い、「現時点では村の外縁部に魔物が出没、家屋数棟に被害ありとの報告です」と返した。
「避難の状況は。住民はどこに退避していますか」
「それは……現地に着いてから確認を」
「つまり、把握していないということですね」
声は平坦だった。責めるトーンではない。ただ事実を確認しているだけ。なのに、部屋の空気がほんの少しだけ固くなった。
レオが立ち上がった。
「大丈夫だって。着いたら俺が全部片付けるから。魔物退治だろ? 任せとけよ」
自信に満ちた笑顔。部屋の空気が緩む。リネットは端末に視線を落とし、それ以上何も言わなかった。
俺は、ドア際から二人を見ていた。
レオの笑顔の裏で、リネットの端末の画面が、小さな光の線をいくつも走らせている。
何を記録しているんだ、あの端末は。
俺にだけ見える文字列と、彼女が追いかけている何かは——繋がっているのか。
分からない。
分からないまま、明日が来る。
辺境の村エルデンへ向けて、勇者パーティは出発する。
嫌な予感がした。
根拠はない。ただ、今朝見た【注目誘導】のラベルと、昨夜見た【主人公補正】の脈動が——あの村の上空に、何か別のラベルをぶら下げていそうな気がした。
それが何なのかは、着いてみないと分からない。




