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死んだ親父の部屋は1日で1年進む 〜45歳サラリーマン、人生をやり直す〜  作者: ズッキー


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第9話 その違和感の正体

「じゃあ、この案件について意見ある人」


会議室に、上司の声が響く。


いつも通りの風景。


沈黙。


誰も手を挙げない。


――昨日までなら、俺も同じだった。


「……あります」


気づけば、手を挙げていた。


一瞬で、視線が集まる。


「佐藤?」


上司が少し驚いた顔をする。


無理もない。


45歳、平凡、発言しない男。


それが俺だったからだ。


「どうぞ」


促される。


俺は資料を一枚めくった。


全体を見る。


構造を見る。


結論は、もう出ている。


「この案件、現状のままだと失敗します」


空気が止まる。


何人かが顔を上げる。


だが、止まらない。


「理由は三つです」


指を立てる。


「一つ目、ターゲット設定が曖昧です」


淡々と話す。


「誰に売るのかが決まっていない。だから施策が全部中途半端です」


誰かが小さく頷く。


「二つ目、コスト構造が崩れてます」


ページをめくる。


「この価格設定だと、売れても利益が出ません」


ざわつく。


そして――


「三つ目」


一拍置く。


「そもそも、この商品自体に競争優位がありません」


完全に空気が変わる。


「……」


沈黙。


だが、それで終わらない。


「解決策もあります」


自然に言葉が出る。


「ターゲットを絞るべきです。具体的には――」


自分でも驚くほど、言葉が止まらない。


考えている感覚がない。


見えているものを、そのまま言っているだけだ。


説明が終わる。


完全な沈黙。


そして――


「……佐藤」


上司がゆっくり口を開いた。


「お前、それ……どこで勉強した?」


「……独学です」


嘘じゃない。


ただし、その“時間”は言えない。


「……そうか」


上司が腕を組む。


「正直に言う」


会議室の空気が張り詰める。


「全部、その通りだ」


ざわめきが走る。


「この案件、実は上でも問題になってた」


周りの顔色が変わる。


「お前の言った三点、全部指摘されてる」


誰かが息を飲む。


「……なんで分かった?」


その問いに――


俺は一瞬、言葉に詰まった。


なんで分かった?


そんなの決まっている。


考えたからだ。


構造を見たからだ。


だが――


「……」


違う。


それだけじゃない。


見えすぎている。


一瞬で、分かってしまう。


「……佐藤?」


上司の声で現実に戻る。


「あ、すみません」


軽く頭を下げる。


「癖みたいなもんです」


ごまかす。


だが、その瞬間だった。


――遅い。


頭の中で、誰かがつぶやいた。


「……え?」


一瞬、違和感。


目の前の会議。


人の動き。


会話。


全部が――


遅く感じる。


いや、違う。


俺が速いのか。


「……」


心臓が少しだけ強く打つ。


なんだ、これ。


「佐藤?」


また呼ばれる。


「……はい」


普通に返す。


だが、内側では違った。


会話が遅い。


反応が遅い。


思考が遅い。


「……」


イライラしそうになる。


だが、押さえる。


ここで顔に出したら終わりだ。


「とりあえず、この案件は一回止める」


上司が言う。


「佐藤の案、まとめてくれ」


「……分かりました」


短く答える。


それで会議は終わった。


人が立ち上がる。


ざわざわと話し始める。


「すげぇな、佐藤……」


「別人じゃね?」


そんな声が聞こえる。


だが――


「……うるせぇな」


思わず、小さくつぶやいた。


自分でも驚く。


今までなら、そんなこと思わなかった。


むしろ嬉しかったはずだ。


褒められること。


認められること。


それを求めていたはずだ。


なのに――


「……遅いんだよ」


また、口から漏れる。


はっとする。


俺は、何を言ってる?


周りの人間が、遅い?


そんなわけ――


「……」


否定できなかった。


分かってしまうからだ。


全部。


考えなくても、見えてしまうからだ。


「……これか」


小さくつぶやく。


あの部屋。


一年。


二年。


三年。


積み重ねた時間。


その結果――


俺は変わった。


だが、それは“いいこと”だけじゃない。


「……ズレてきてるな」


静かに目を閉じる。


外見は45歳。


だが中身は――


どれだけ年を重ねた?


分からない。


考えたくもない。


「……」


ゆっくりと目を開ける。


だが、口元は少しだけ笑っていた。


「まあ、いいか」


小さくつぶやく。


強くなるっていうのは、そういうことだろ。


全部が都合よくいくわけじゃない。


それでも――


「止まる理由にはならねぇな」


俺は立ち上がる。


まだ足りない。


もっといける。


この力の先を、見てみたい。


そして――


頭の片隅で、もう一つの疑問が浮かぶ。


「……親父は」


あの部屋を残した男。


どれだけ使った?


どれだけの時間を過ごした?


どれだけズレた?


「……」


答えは、まだ出ない。


だが一つだけ、分かる。


この力には――


何かがある。


それでも俺は、歩くのをやめなかった。

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