表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死んだ親父の部屋は1日で1年進む 〜45歳サラリーマン、人生をやり直す〜  作者: ズッキー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/20

第8話 普通じゃない、という違和感

「おはようございます」


いつも通りの声。


いつも通りの朝。


いつも通りの会社。


「おー、佐藤。おはよ」


軽く手を上げる上司。


俺の名前は佐藤 恒一。


45歳。


営業職。


特に目立つこともなく、

なんとなく会社にいるだけの男だ。


――昨日までは。


「……」


自分の席に座る。


パソコンを開く。


メールを確認する。


いつもと同じ作業。


のはずなのに――


「……遅いな」


思わずつぶやく。


頭の中で、すでに全体像が見えている。


優先順位。


処理順。


やるべきこと。


全部が、最初から整理されている。


「……なんだこれ」


苦笑する。


今までの俺は、ここで止まっていた。


どれからやるか迷う。


無駄に時間を使う。


それが普通だった。


だが今は違う。


「これ先だな」


マウスを動かす。


返信。


判断。


次。


迷いがない。


数分で、半分以上終わった。


「……は?」


自分で驚く。


今までなら一時間はかかっていた。


それが――


「十分もかかってねぇぞ」


違う。


スピードじゃない。


考え方が違う。


そのときだった。


「佐藤さん、それ今日中でいいんでしたっけ?」


後輩の声。


振り向く。


資料を持っている。


「……見せてみ」


自然に言葉が出る。


資料を受け取る。


ざっと目を通す。


三秒。


いや、二秒か。


「これ、ダメだな」


思わず言った。


「え?」


後輩が固まる。


俺も少しだけ止まる。


今までの俺なら、こんなことは言わない。


空気を読む。


波風を立てない。


それが“普通の佐藤”だった。


だが――


「ここ、論理が飛んでる」


指で指す。


「この数字と、この結論、つながってないだろ」


後輩の目が変わる。


「……あ」


気づいた顔だ。


「あとここ。前提がおかしい」


さらに指摘する。


「このまま出したら、確実に突っ込まれる」


沈黙。


数秒。


そして――


「……すみません。全然気づきませんでした」


素直に頭を下げる。


その姿を見て、少し驚く。


今までなら、


「いや、いいんじゃないですかね」


と曖昧に流していた。


それで、後で問題になる。


そんなことを何度も見てきた。


「……直せるか?」


俺は聞く。


「はい、すぐやります」


力強い返事。


悪くない。


「分からなかったら呼べ」


そう言って、資料を返す。


後輩は急いで席に戻っていく。


「……」


俺は画面に向き直る。


だが、すぐに気づいた。


周りの視線。


チラチラと、こちらを見ている。


「……なんだ?」


小さくつぶやく。


そのとき、隣の席の同僚が言った。


「佐藤……お前さ」


「ん?」


「なんか、今日違くない?」


一瞬、止まる。


「……そうか?」


できるだけ普通に返す。


だが、同僚は首をかしげる。


「いや、なんていうか……」


言葉を探している。


「キレてるっていうか」


「……」


「いや、変な意味じゃなくてな?」


慌てて付け加える。


「なんか、処理速いし、判断早いし……」


少し間を置いて、言った。


「普通じゃねぇ感じ」


――普通じゃない。


その言葉が、妙にしっくりきた。


「……そうかもな」


小さく笑う。


俺は、普通じゃない。


少なくとも――


昨日までの俺とは違う。


「佐藤」


上司の声。


顔を上げる。


「この案件、どう思う?」


資料を投げられる。


今までなら、少し考えてから答えていた。


だが――


今回は違う。


パラパラとめくる。


全体を見る。


構造を見る。


「……これ、失敗しますね」


即答した。


「は?」


上司が固まる。


周りの空気も止まる。


だが、止まらない。


「このままだと、利益出ません」


静かに言う。


「理由は三つあります」


指を立てる。


「まず――」


言葉が、自然に出てくる。


考えている感覚すらない。


ただ、見えたものを言っているだけだ。


説明が終わる。


沈黙。


数秒後――


「……お前、それマジで言ってんのか?」


上司が低く言う。


「はい」


迷いなく答える。


「……」


空気が張り詰める。


だが、俺は思っていた。


不思議と怖くない。


根拠があるからだ。


考えたからだ。


「……面白い」


上司が小さく笑った。


「ちょっと詳しく聞かせろ」


その言葉で、空気が変わった。


完全に。


「……」


俺は静かに息を吐く。


分かってきた。


この力の意味。


体よりも。


筋肉よりも。


もっと強いもの。


「……これが、武器か」


小さくつぶやく。


誰にも聞こえない声で。


そして――


俺の「普通じゃない一日」が、始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ