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死んだ親父の部屋は1日で1年進む 〜45歳サラリーマン、人生をやり直す〜  作者: ズッキー


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第5話 初めて使う、その力

「……軽いな」


外の空気を吸い込んだ瞬間、そう思った。


二年。


この部屋で過ごした時間は、俺の中では二年だ。


だが外は、たった二日。


体も、感覚も、すべてが変わっている。


地面を蹴る。


それだけで分かる。


「……別人だな」


苦笑いが漏れる。


だが――


問題は、これが現実で通用するのかどうかだ。


「試してみるか」


俺は歩き出した。


向かう先は、駅前のゲームセンター。


昔、若い頃に遊んだことがある。


パンチングマシン。


単純でいい。


力がそのまま数字になる。


今の自分がどこまでいけるのか、確かめるにはちょうどいい。


夜の街は、いつも通りだった。


酔っ払い。

笑い声。

スマホを見ながら歩く人間。


何も変わっていない。


変わったのは――


「俺だけか」


そう思ったときだった。


路地の奥から、怒鳴り声が聞こえた。


「マジでくせえ!!!」


「汚え体でぶつかってんじゃねえよ、クソが!」


足が止まる。


反射的に、視線が向いた。


暗い路地。


若い男が三人。


その前に――


ボロボロの服を着た男が一人。


ホームレスだ。


壁際に追い詰められている。


「やめてください……本当にすみません……」


震える声。


殴られる音。


鈍い音が、夜に響く。


その瞬間――


頭の中に、昔の自分が浮かんだ。


見て見ぬふりをする自分。


関わらない方がいいと逃げる自分。


「……」


足が動かない。


いや――


動けなかった。


ずっと、そうやって生きてきた。


だが。


「……違うだろ」


小さくつぶやく。


俺は、もうあの頃の俺じゃない。


逃げなかった二年を、知っている。


積み上げた時間を、知っている。


「……はぁ」


一つ、息を吐く。


そして――


足を踏み出した。


「おい」


声をかける。


三人の男が振り向く。


「……あ?」


「なんだよ、おっさん」


その言葉に、少しだけ笑う。


「それ、やめとけ」


静かに言う。


空気が変わる。


「は?関係ねぇだろ」


一人が近づいてくる。


威圧するように、胸を張って。


「どっか行けよ。面倒くせぇな」


俺は、その男をまっすぐ見た。


「面倒なのは、お前らだろ」


一瞬、沈黙。


次の瞬間――


「……舐めてんのか、テメェ!」


拳が飛んできた。


速い。


だが――


「……遅いな」


自然に、体が動いた。


最小限の動きで避ける。


そして、そのまま。


軽く。


本当に軽く、拳を当てる。


ドン。


鈍い音。


男の体が、そのまま崩れた。


「……は?」


残りの二人が固まる。


俺も、一瞬止まった。


今の感覚。


分かる。


「……これか」


力を“当てた”だけ。


それで、あの威圧感の塊みたいな男が倒れた。


二年。


無駄じゃなかった。


むしろ――


「やりすぎたか?」


軽く首をかしげる。


残りの二人が後ずさる。


「な、なんだよコイツ……」


「やべぇって……」


「まだやるか?」


一歩、踏み出す。


それだけで、二人は一瞬で背を向けた。


「チッ……覚えてろよ!」


そのまま、走って消えていく。


静寂が戻る。


俺はゆっくりと振り返った。


ホームレスの男。


震えながら、こちらを見ている。


「……大丈夫か?」


声をかける。


男は何度も頷いた。


「ありがとうございます……本当に……」


深く頭を下げる。


その姿を見て――


胸の奥が、少しだけ熱くなる。


「……いや」


俺は軽く手を振った。


「たまたまだ」


そう言って、その場を離れる。


だが。


数歩歩いたところで、足が止まる。


「……」


振り返らない。


でも、分かる。


さっきの光景。


あのまま放っておいたら、どうなっていたか。


「……」


ゆっくりと拳を握る。


この力は、何のためにあるのか。


二年かけて手に入れたもの。


自分のためか?


違う。


それだけじゃない。


「……悪くないな」


小さく笑う。


そして、もう一度歩き出す。


目的地は変わらない。


ゲームセンター。


パンチングマシン。


だが――


さっきまでとは、意味が違う。


ただの力試しじゃない。


「どこまで通用するか、か」


静かに目を細める。


自分の力が、この世界でどこまでいけるのか。


その答えを、確かめにいく。


夜の街を抜けて。


俺は、光の中へ入っていった。

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