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死んだ親父の部屋は1日で1年進む 〜45歳サラリーマン、人生をやり直す〜  作者: ズッキー


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15/20

第15話 利益で本社を黙らせた日

「今月から、この売り場を強化する」


会議室の空気が少しだけ重くなる。


本社のバイヤーが持ってきた資料には、大きく売上目標が書かれていた。

前年対比110%。そのための施策として、例の商品を“前面展開”するという。


見覚えのある商品だった。

売れないわけじゃない。だが、あの数字を見た今となっては、手放しで賛成できるものでもない。


「……どう思う?」


店長が小さく聞いてくる。


「正直に言っていいですか」


「いい」


短く答えが返る。


俺は資料に目を落としながら口を開いた。


「この施策、売上は上がります。でも、利益は下がります」


一瞬、空気が止まる。


バイヤーが顔を上げた。


「……根拠は?」


感情はない。完全に“上からの視線”だ。


だが、もう怖くはない。


「この商品の原価、仕入れ条件、回転率を見れば分かります」


資料の一部を指で叩く。


「まず原価が高い。販促で値引きをかけると、粗利はほとんど残りません」


ページをめくる。


「さらに、回転が遅い。前面に出せば一時的に売れますが、その後は在庫が滞留します」


静かに続ける。


「結果として、廃棄や値引きが増えて、トータルで利益は落ちます」


沈黙。


会議室の全員がこちらを見ている。


「……それは仮説だろ」


バイヤーが言う。


「売上が上がれば、結果的に利益もついてくる」


その言葉に、少しだけ間を置く。


そして、はっきりと言う。


「ついてきません」


空気が一段冷える。


「……言い切るのか?」


「はい」


迷いはない。


「なぜなら、すでに同じ構造の商品で数字が出ているからです」


手元の資料とは別の紙を出す。


ここ数日の売り場データをまとめたものだ。


「この商品、条件がほぼ同じです」


売上推移、原価率、廃棄率。

一つずつ指でなぞる。


「売上は伸びています。でも――」


少しだけ間を置く。


「利益はほとんど増えていません」


バイヤーの表情がわずかに変わる。


「むしろ、廃棄が増えてマイナスの日もあります」


会議室が静まり返る。


店長が小さく息をのむのが分かった。


「……じゃあ、どうする」


低い声で聞かれる。


試されている。


だが、それすら心地いい。


「やることはシンプルです」


俺は別の資料を差し出した。


「利益が出ている商品の前面展開に切り替えます」


指で示す。


「こちらは原価が低く、回転が速い。多少売上が落ちても、利益は確実に残ります」


さらに続ける。


「加えて、先ほどの商品は展開を絞り、在庫リスクを下げます」


一瞬、間を取る。


「売上ではなく、“利益を最大化する配置”に変えます」


沈黙。


長い沈黙。


やがて――


「……数字、合ってるな」


誰かが小さくつぶやく。


バイヤーが資料を見直している。


何度も、何度も。


「……」


やがて顔を上げる。


さっきまでの余裕は消えていた。


「……このデータ、いつ取った?」


「ここ数日です」


「……」


さらに沈黙。


そして――


「……分かった」


低く言う。


「その案でやってみろ」


会議室の空気が一気に変わる。


「ただし」


バイヤーが続ける。


「結果が出なければ、元に戻す」


「問題ありません」


即答する。


むしろ、その方がいい。


結果で証明できる。


「……面白いな」


小さくつぶやく声が聞こえた。


誰の声かは分からない。


だが、もうどうでもよかった。


会議が終わる。


部屋を出た瞬間、田村が横に並ぶ。


「……やるじゃねぇか」


ぼそっと言う。


「別に」


軽く返す。


だが、内心は違う。


はっきり分かっていた。


「……通用したな」


小さくつぶやく。


売り場だけじゃない。


本社にも。


数字で見て、構造で考えれば、立場なんて関係ない。


正しい方が勝つ。


「……次は」


ふと、頭に浮かぶ。


数字は分かった。


利益も見える。


だが――


「契約は?」


条件。


取引。


ルール。


そこを押さえれば、さらに上に行ける。


「……まだ足りないな」


小さく笑う。


だが、焦りはない。


やることは分かっている。


積み上げればいい。


それだけだ。


廊下を歩きながら、空を見上げる。


「……いい流れだな」


思わずそう口に出た。


ただのサラリーマンだったはずの自分が、今は違う場所に立っている。


だが、まだ途中だ。


ここから先は――


もっと面白くなる。


そう確信していた。

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