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死んだ親父の部屋は1日で1年進む 〜45歳サラリーマン、人生をやり直す〜  作者: ズッキー


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第14話 簿記2級、数字を“支配”した日

簿記3級を終えたとき、正直に言えば、少し甘く見ていた。


数字の流れは理解した。利益の構造も見えるようになった。

ここまで来たなら、2級も延長線上でいけるだろう――そう思っていた。


だが、その認識は最初の数日で叩き壊された。


「……なんだこれ」


問題集を開いた瞬間、手が止まる。


見たことのない用語。見たことのない計算。

そして何より、処理の量が明らかに違う。


工業簿記。


その文字を見たとき、嫌な予感はしていた。

だが実際に解き始めてみると、それは予感どころの話ではなかった。


材料費、労務費、製造間接費。

配賦、差異、標準原価。


「……意味が分からん」


思わず天井を見上げる。


3級とは別物だった。いや、同じ“簿記”という名前をしているだけで、中身は完全に別のゲームだ。


最初にやったのは、いつも通りのやり方だった。

とにかく読み、覚え、問題を解く。


――だが、通用しない。


「違うな……」


手応えがない。覚えたはずなのに、少し形が変わるだけで何も解けなくなる。


そこでようやく気づく。


「これは、暗記じゃ無理だ」


椅子に深く座り直す。


なら、どうする。


答えは決まっている。


「分解するしかない」


3級でやったことと同じだ。

分からないなら、小さく分けて、意味を拾う。


材料費とは何か。

労務費とは何か。

なぜ分ける必要があるのか。


一つずつ書き出す。


最初は時間がかかった。理解したと思っても、すぐに崩れる。

問題を解けば間違える。その繰り返しだった。


だが、あるとき、ふと手が止まる。


「……あれ?」


一つの問題を解いていたときだった。


今までバラバラに見えていたものが、一本の線で繋がる。


製造の流れ。


原価の積み上がり。


どこでコストが発生し、どこでズレるのか。


「……そういうことか」


小さくつぶやく。


これは計算じゃない。

“現場の動き”を数字にしているだけだ。


材料が入り、人が動き、機械が動く。

そのすべてにコストが乗り、それが商品になる。


だから、ズレが出る。無駄が出る。


「……見えるな」


背筋が少しだけ熱くなる。


今まで感覚でしか分からなかった“ムダ”が、はっきりと形になる。


どこでコストが膨らんでいるのか。

どこを改善すれば利益が出るのか。


数字が、それを教えてくる。


「……これ、やばいな」


思わず笑う。


売り場だけじゃない。工場も、本部も、全部同じ構造で動いている。


そして、その構造を理解した人間だけが、改善できる。


その日から、勉強の質が変わった。


問題を解くたびに、「なぜこの数字になるのか」を追いかける。

式を覚えるのではなく、流れを理解する。


間違えたら、必ず理由を言葉にする。

説明できるまで、先に進まない。


時間はかかった。だが、確実に積み上がっていく感覚があった。


そして、ある日。


問題を見た瞬間、答えまでの道筋が自然に浮かぶようになった。


「……いけるな」


確信に変わる。


そのとき、同時に思い出す。


あの売り場。


あの商品。


そして、今度は――もっと広い視点で見える。


「……ここ、無駄だな」


仕入れのロット。

在庫の滞留。

値引きのタイミング。


全部が繋がる。


「利益、まだ上げられるな」


静かに言う。


もう“売るだけの人間”じゃない。

構造を理解して、利益を作る側に回っている。


「……面白ぇ」


心の底からそう思った。


ここまで来ると、怖さも出てくる。


これを知らない人間は、どうなるか。


数字に振り回される。

結果だけ見て、原因が分からない。


そして、改善できないまま終わる。


「……そりゃ差がつくよな」


小さく笑う。


だが、もういい。


どっちにいるかは、自分で決められる。


机の上のノートを閉じる。


簿記2級。終わりじゃない。

だが、ここは一つの壁だった。


そして――越えた。


「……次だな」


自然と口に出る。


数字は分かった。構造も見える。


なら、その上にあるものは何か。


契約。法律。税金。


「……全部、武器になるな」


ゆっくりと立ち上がる。


一つ手に入れるたびに、世界が広がる。

見えなかったものが見え、触れなかった領域に手が届く。


「……いいじゃねぇか」


小さく笑う。


これはただの勉強じゃない。

“支配するための準備”だ。


ドアの前に立つ。


現実に戻る時間だ。


外はまだ一日も経っていない。

だが、自分の中では確実に変わっている。


「……全部、取るぞ」


静かに言う。


数字も、法律も、その先も。


全部。


ドアを開ける。


その瞬間、確信していた。


もう、元の自分には戻らない。


【習得スキル】

・日商簿記3級(理解度:100%)

・日商簿記2級(理解度:92%)

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