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死んだ親父の部屋は1日で1年進む 〜45歳サラリーマン、人生をやり直す〜  作者: ズッキー


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12/20

第12話 売り場という戦場と、新しい武器

「で、どれですか?」


売り場に立ちながら聞くと、


「……あれだ」


少し不機嫌そうに答えたのは、田村だった。


営業課のリーダー。

35歳。


数字は課内トップ。

要領がよく、上からの評価も高い。


――そして、俺のことをよく思っていない男だ。


「三ヶ月動いてない“死に在庫”だよ」


顎で指された先。

棚の端に追いやられたスキンケア商品。


「……なるほど」


手に取る。


軽い。

中身じゃない。


売り方が軽い。


「これ、いつから?」


「言ったろ。三ヶ月」


「売れた本数は?」


「……ほぼゼロ」


周りがざわつく。

だが――


「商品は悪くないですね」


そう言った瞬間、


「は?」


田村が眉をひそめた。


「売れないのは“商品”じゃない」


一歩踏み込む。


「売り方です」


そのまま棚を見る。


位置が悪い。

説明がない。

ターゲットが不明。


――全部見える。


「いいですか」


近くの後輩に声をかける。


「はい……」


「これ、なんで売れないと思う?」


「えっと……高いから?」


「違う」


即答する。


「“分からない”からです」


沈黙。


「人は、分からないものは買わない」


棚を指す。


「何に効くのか、誰向けなのか、何が違うのか」


一つずつ指で示す。


「全部、説明されてない」


「いや、パッケージに――」


田村が口を開く。


「読まないですよ」


被せる。


「客はそんなに暇じゃない」


空気が止まる。


「だから」


商品を持ち上げる。


「“考えなくても分かる状態”を作る」

「……じゃあ、こうしましょうか」


俺は田村を見た。


「この商品、今日中に12本売ります」


一瞬、空気が止まる。


「は?」


「もしできなかったら、俺の負けでいいです」


周りがざわつく。


だが、そのまま続ける。


「逆に、売れたら――」


少しだけ間を置く。


「現場、立ってもらえます?」


田村の目が細くなる。


「“やれば売れる”って、体で分かってほしいんで」


沈黙。


そして――


「……面白ぇじゃねぇか」


ニヤリと笑う。


「やってみろよ」


その瞬間、頭の中で整理される。


――売上=客数×購買率×客単価

――購買率を上げる


やることは一つ。


「30分ください」


俺は動いた。


――30分後。


売り場は変わった。


棚の中央へ移動。

目線の高さ。

POPは3枚。

シンプルに。


「30代後半からの乾燥肌対策」

「3日で実感、高保湿美容液」

「まずは1本、試してください」


無駄は削る。

一瞬で理解させる。


「……これでいい」


田村が腕を組む。


「で?」


ニヤつく。


「売れんのか?」


「見ててください」


俺は売り場の横に立つ。 


待つ。


――5分。


一人の女性が立ち止まる。


POPを見る。

商品を手に取る。

迷う。


「それ、夜使うと分かりやすいですよ」


一言だけ。

押さない。

説明しすぎない。


「え、そうなんですか?」


「はい。乾燥強い人には合います」


それだけ。


「……じゃあ」


カゴに入る。


――1本目。


「……」


田村が黙る。


その後も続く。


10分で3本。

30分で8本。

1時間で――


「……12本」


誰かがつぶやく。


「三ヶ月でゼロだったのに……」


「売れるんですよ」


静かに言う。


「構造が分かれば」


沈黙。

完全に空気が変わる。


「……」


俺は少しだけ息を吐く。


――だが。

そのとき、ふと思う。


「……これだけか?」


売る。

分解する。

改善する。


できる。

だが――


「まだ浅いな」


小さくつぶやく。

隣で田村が聞き返す。


「は?」


「いや」


首を振る。


「もっと深くできるなって」


頭の中に浮かぶ。

“利益”。


売上じゃない。

利益構造。


「……原価、いくらなんですか?」


店長に聞く。


「え?ああ、確か……700円くらいだな」


「売価1980円」


頭の中で一瞬で計算する。


「……粗利、薄いな」


小さくつぶやく。

田村が反応する。


「は?十分だろ」


「いや」


首を振る。


「販促費とロス考えたら、ほぼ残りませんよ」


沈黙。


「……なんで分かる?」


その問いに、一瞬だけ言葉に詰まる。


――なんで分かる?

違う。


分かっているんじゃない。

“分かるようになった”んだ。


だが同時に、思う。


「……まだ足りない」


利益を“感覚”で見ている。


これはダメだ。

ちゃんと数字で見たい。


「……」


ふと、頭の中に言葉が浮かぶ。


簿記。

利益。

原価。

損益分岐。


全部、体系的に理解できる学問。


「……これか」


小さくつぶやく。

田村が怪訝な顔をする。


「何がだよ」


「次にやることです」


静かに言う。


売り場を見る。 


動き出した商品。

変わった空気。


「売るのはできる」


認める。


だが――


「数字で支配するには、足りない」


もっと上に行くには。

感覚じゃなく、完全に理解する必要がある。


「……面白くなってきた」


小さく笑う。


また、あの部屋を使う時が来た。


一日で一年。

今度は――

数字を極める一年だ。


「……約束、覚えてますよね?」


田村を見る。

逃げ場はない。


「……やるよ」


低く吐き出す。

周りがざわつく。


だが俺はもう次を見ていた。

売り場じゃない。


もっと先。


「……次は」


小さくつぶやく。


「負けねぇぞ、数字には」


その目は、もう別の戦場を見ていた。

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