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死んだ親父の部屋は1日で1年進む 〜45歳サラリーマン、人生をやり直す〜  作者: ズッキー


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第11話 分からなかった男が、分かるようになるまで

「……で、売上が落ちてる理由は?」


上司の声。

俺は一瞬、言葉に詰まった。


頭の中では、答えは出ている。

だが――


どうやってここまで来たのか。

それを説明しようとした瞬間、手が止まった。


「……」


違うな、と思う。

これは“今の俺”の答えだ。


だが――

“前の俺”は、ここにいなかった。


「……」


ふと、あの部屋を思い出す。


机。

ノート。

積み上がった本。


そして――


何度も頭を抱えた時間。


「……最初は、何も分かりませんでした」


気づけば、口が動いていた。

会議室の空気が少し変わる。


「売上って、なんとなく“上がるか下がるか”で見てたんです」


苦笑する。


「でも違いました」


一歩、踏み出す。


「売上は分解できる」


指を立てる。


「客数と、客単価です」


周りが静かに聞いている。


「ここまでは、誰でも知ってます」


だが――


「問題は、その先でした」


一瞬、目を閉じる。


思い出す。

あの時間を。


――部屋の中。


「……分からねぇ」


ノートに書く。


客数。

客単価。


それは分かる。

だが、その先が続かない。


「なんで増えるんだよ……」


何度も考える。

分からない。


本を読む。

また分からない。


書き直す。

消す。


また書く。


「……」


時間だけが過ぎる。


一日。

一週間。

一ヶ月。


それでも、分からない。


「……クソが」


ペンを投げたこともあった。


やめたくなった。

逃げたくなった。


だが――

逃げ場はない。


一年だ。

強制的に、向き合わされる。


「……」


ある日。

ふと、気づいた。


「……あ」


手が止まる。

ノートを見る。


客数。

客単価。


その下に、こう書いてあった。


客数 = 来店客数 × 購買率

客単価 = 点数 × 単価


「……繋がった」


小さくつぶやく。

点と点だったものが、線になる。


「来店客数を増やすには?」

「購買率を上げるには?」

「点数を増やすには?」

「単価を上げるには?」


全部、分解できる。

全部、考えられる。


「……なんだよ」


笑いがこぼれる。


「そういうことかよ」


それからだった。

世界が変わったのは。


売り場を見る。

数字を見る。

客の動きを見る。


全部が“分かる”。


「……」


現実に戻る。


会議室。

上司。

資料。


「だから、分かるんです」


静かに言う。


「売上が落ちてる理由」


資料を指す。


「客数が落ちてるんじゃない」


視線を上げる。


「購買率が落ちてます」


誰かが息を飲む。


「来店はしてる。でも買ってない」


一歩踏み込む。


「つまり問題は“商品”じゃない」


一拍置く。


「売り方です」


完全に沈黙。


「……」


俺はゆっくり息を吐く。


思い出す。

あの時間を。


何度も分からなかった時間。

何度も諦めそうになった時間。


「……簡単じゃなかったですよ」


小さくつぶやく。

誰に言うでもなく。


「でも」


顔を上げる。


「分かるようになります」


静かに言う。


「ちゃんと考えれば」


会議室の空気が、変わる。

さっきまでとは違う。


ただの“すごい人”じゃない。

“積み上げた人間”としての空気。


「……佐藤」


上司が口を開く。

その声は、少しだけ変わっていた。


「お前……」


言葉を探している。

だが、続かない。


その代わり――


「……やるな」


それだけ言った。

それで、十分だった。


「……」


俺は小さく笑う。


強くなった理由。

それは、シンプルだ。


「……逃げなかっただけだ」


あの部屋で。


一年間。

ずっと。


ただ、それだけだ。

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