勇者は、絶対に俺が殺す。
勇者ミレイ視点書きました!
最愛の人になら、殺されてもいい。
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――勇者、ミレイ。
世界を救った勇者の名だ。
世界は魔王の目覚めにより、魔物が活発化。
魔物を率いた魔王により数多の国家が落とされた。
そんな中、女神からの神託により、勇者が選ばれた。
ただの村娘だった勇者、もといミレイは、勇者の剣を携え、魔王討伐へと旅立った。
ミレイにより人類は瞬く間に領土を取り返していった。
そして数多の困難を乗り越え、遂に人類の悲願であった魔王討伐を成し遂げた。
ミレイは強かった。
ミレイの強さは誰も追いつくことのできない遥か高みであり、当初、パーティーを組んで動いていたが、パーティーが足手まといになることもあり、最終的には常に独りで戦うことを余儀なくされていた。
だが、一緒に戦う事は出来なくとも、物資の補給や情報の伝達、日常での雑事等を行う人間は必要だった。
そこで雇われたのが職業、暗殺者の俺。
補給、伝達、雑事、雑魚処理、全てを高水準で行える事から選ばれた。
そして全ての国家の総意として密命を受けている。
魔王討伐を成し遂げた後、
――勇者を、殺せ。
どうやらそれが人類平和を成し遂げる為の最後のピースらしい。
仕事は仕事。
暗殺者として依頼を受けたからには成功以外あり得ない。
ましてや、どんなに相手との仲が深まろうとも依頼主を裏切るなんてことはしない。
しないが、勇者への殺意が無くなった時、俺の命が終わる呪いを保険としてかけられた。
そこまでするならと俺からも条件をつけた。
俺が付けた条件は三つ。
一つ、俺以外に依頼しないこと。
二つ、殺しの方法は任せること。
三つ、期限を設けない事。
これが飲めない、もしくは破られた時には任務と呪いは破棄。そういう契約をした。
一つ目は他の奴らに邪魔をされたら困るから。
二つ目、三つ目は、勇者という世界最強の人間に対して殺し方や期限を決められたら出来るものも出来ない。
そういう理由からだ。
勇者は魔王を倒した。
だから、俺は行動を開始した。
勇者は世界最強だ。
色々な方法を探り、試した。
ある時は食事に毒を混ぜた。
ある時は土砂崩れを起こした。
だが、どんな罠も全て失敗に終わった。
毒はまるで効かずに食事は美味いといって食べていた。
土砂崩れなんてまるでなかったかのように土砂の中から出てきた。
俺は気づいた。
こんな方法じゃいくらやっても勇者を殺すことなど出来やしない。
あまり気は進まなかったが、俺自身が直接手を下すしかない。
それはあえて取らないようにしていた選択肢だった。
俺は、暗殺者だ。
――だが、人間だ。
短い付き合いじゃない。
長い付き合いだ。
数多の試練を乗り越え、苦楽を共にし、二人だけで魔王まで倒したのだ。
情が移らないほうが無理だった。
俺は人間だ。
――だが、暗殺者だ。
この情も、何もかもを利用するんだ。
勇者が俺を想ってくれているのはわかってる。
俺が失敗したならきっと他の暗殺者が来るのだろう。
勇者が負ける所など想像できないが、万が一もある。
俺以外が勇者を殺るなんて事は、
仲間として、
暗殺者として、
そして、
愛しているからこそ、許せない。
だから勇者は、
ミレイは、
絶対に俺が殺す――。
確実に殺る為にまずはミレイとの仲をこれ以上に深める。
誰もいない小高い丘。
周りにあるのはどこにでも咲いているような花が一輪だけ。
そこで俺はミレイにプロポーズをした。
ミレイは、『これからも、ずっと一緒にいてね。』そう言って俺を受け入れてくれた。
俺がミレイを想う気持ちは嘘じゃない。
だけどそれ以上に、ミレイを騙している罪悪感から涙がこぼれた。
それから数年。
ミレイの警戒心をゼロにするため、一緒に過ごした。
その日々は幸福で、ミレイへの殺意なんてどこかへいってしまいそうだった。
実際、胸が痛むことが増えた。
これは恐らく、殺意が薄まっていることで、呪いが発動しかけてるのだと思う。
もういっそ殺意なんて抱えずに、幸せな思いだけを抱えたまま俺が死ねばいいのかと何度も思った。
だけど残されたミレイの気持ち、そして他の暗殺者の事も考えると、死ぬわけにはいかなかった。
だから覚悟を、した。
――深夜。
隣で眠るミレイの胸に刃を突き立てる為、振り被る。
ミレイの目がぱちりと開く。
俺を見て、微笑む。
『いいよ。』
それだけ言って目を閉じるミレイ。
刃を振り下ろす。
胸に突き立つその瞬間。
ミレイの目尻から一筋の涙が零れる。
手が止まった。
いや、
――止めてしまった。
刃を片付け、ミレイの横にいき、抱きしめる。
『いいの…?』
ミレイに聞かれる。
震える声で言葉を絞り出す。
「もう…もう、いいんだ――。」
ゆっくりと、しかし確実に痛み始める胸。
あぁ…暗殺者である前に、やっぱり一人の人間だった。
ミレイを一人にしてしまうけど。
俺には、
出来ない――。
痛む胸。
ミレイ。ありがとう。そしてごめん。
ゆっくりと目を閉じる。
もう意識がなくなろうかというところで、ミレイが嬉しそうに話す。
『あのね、もしかしたら、
――出来たかも、しれないの。
貴方が私の事をどうにかするつもりなら、言わないでおこうと思ったんだけどね。
――もう、いいんでしょ…?』
死ねない。
死ねないだろ。こんなの。
俺が死んだら、子供だって他の奴に狙われるかもしれない。
護るんだ。
ミレイを。
護るんだ。
子供を。
だから、
だから、
勇者は、絶対に俺が殺す――。
殺す方法を思い描く時が一番胸の痛みが治まる。
勇者を何でなら殺せるのか、死ぬのか。
思い返すのは今までの事。
出会って、一緒に冒険して、魔王を倒して、殺す為に色んな方法を試して、プロポーズして、今日を迎えた。
その中でも、プロポーズしたときのことは忘れられない。
震えがバレないように、ぶっきらぼうな口調で、声で、ミレイを求めた。
返事を返してくれた時のミレイの顔や、言葉は――
その時、閃く。
そうか。
一つ、俺以外に依頼しないこと。
二つ、殺しの方法は任せること。
三つ、期限を設けない事。
――あるじゃないか。
胸の痛みは無くなった。
今度こそ、しっかりとした声で返事を返す。
「大丈夫――。」
――――――――――――――――――――
――あれから何十年、経ったろうか。
儂らには孫もできて、今までの人生は順風満帆と言えるじゃろう。
今、目の前では婆さんが、ミレイが横になっている。
息子、娘、孫、一族すべてに見守られながら。
医者から、最後の挨拶を、と言われて皆集まったのだ。
思い思いの言葉を告げ、最後は儂の番だ。
皆には二人きりにしてくれと出ていってもらった。
「婆さんや…。
いざ最期となると、伝えたい事が多すぎて、うまく言葉にできんのぅ――。」
涙が零れる。
「色んな事があったがよ。婆さんの最期は、儂だけで看取ると決めてるんじゃ。」
老衰。
殺しに期限は設けない。
プロポーズの時に、ミレイは言った。
『ずっと一緒にいてね。』と。
勇者を殺すなら、死を迎えさせるなら、天寿を全うさせればいいのだと、気づいた。
殺意ではなく、最期を看取るという意思。
痛みが治まるかは賭けだったが、上手くいったからこそ、今日を迎えることが出来た。
ミレイの顔を覗き込む。
思い返すのは幸せな思い出ばかり。
――瞬間。
ミレイの目が薄く開く。
そして儂の頬に手を伸ばし、少し、微笑んだ。
頬から手が落ちる。
痛み出す胸。
――そうか、口封じで儂も殺す気だったか。
落ちてくる目蓋。
浅くなる呼吸。
ミレイと一緒なら、それで――
『これからも、ずっと一緒にいてね。』
『――あぁ。死ぬ瞬間まで、ずっと一緒だ。』




