9.脳筋どもの軍事会議
結論から言うと、マオのことは全く心配いらなかった。
『マスター、マスター』
「!!???」
マオが攫われて、その日の晩には思念伝達が送られてきた。脳に直接声が聴こえたのだ。
あまりにも急に声が聴こえたので、寝ていたのに体がビクゥ!!!と跳ねた。
飛び起きて、周りをキョロキョロ。誰もいない。
「え。え? マオ?」
『はい。マオです』
「い、今どこにいるの」
『魔王城です』
「ま・ま!?」
『魔王城です、マスター』
防音結界展開。時間はもう真夜中なので、これで心置きなく会話も出来る。
「一応聞くけど、無事?」
『はい。怪我一つございません」
「よ。良かった〜」
『攫ったのは魔族。マスターに魔王の座へ座らせ魔界の統治を図ったものと思われます』
「まあ、そんなこったろうとは思ったけどさ…。で、マオは今何をしてるの?ていうか、何をさせられてるの?」
『現在、魔王軍の軍事会議に出ております』
「ぐん…!!?」
ちょっと待て。それって現在進行形ってこと? 周りに幹部が勢揃いして人間界でいう国会が開かれる的な。え、今それに出てるってこと!?
「え、待って? それ、バレない? 私とこっそり会話してて、魔王が偽者だってバレない?」
私が心配するのはそこだ。わざわざ自分の身代わりとして造った分身体だが、どこから偽者だとバレるか分からない。しかしマオはあっけらかんと返答する。
『一切問題ありません。この思念伝達も外部に漏れる心配はなく、現在見破れるほどの魔力を持った者がおりません。マスターの偽者だとバレる可能性はゼロです』
「あ、そうなんだ」
安心はしたものの、ツッコミどころはある。
幹部達は、少なくとも全員が魔界の実力者なはずだ。それが魔力が同等とはいえ、分身であるマオの正体に気付かないなんて。
実は魔王軍もそんなに強くなかったり…?
『ちなみに念のため申し上げますと、マスターの魔力が規格外なだけで彼らは魔界では強い部類です』
私の心を読んだのか…?
「じゃあ、今のところ、魔王が偽者だってバレる心配はないんだね」
『はい。完璧に御命令を遂行いたします』
「頼もしくて何よりだよ」
少なくとも、これでしょっちゅう緊急連絡が来ることもなくなるだろう。私の楽しい人間生活は守られる。
「そういえば軍事会議ってどんなこと話してるの? やっぱり人間界への侵攻とか…?」
『幹部間での序列を決めようとしています』
「は?」
『最高位はマスター。次席にクロード様。配下として五名の幹部がおりますが、その幹部内で更に序列を決める動きがあります』
「何で?別に全員が意見をまとめればよくない?」
『魔族とは実力社会で強い者に従う性質があります。同じ幹部といえど自分より弱い者の意見を聞く、ということに嫌悪感を抱いているようです』
「…しょーもな……。え、ちなみにどこまで決まったの」
『幹部のトップは吸血種のハワードと妖精族のヨイミヤで拮抗しております。他三名は同率下位。……会議が終わる気がしません』
「お、お疲れ様…」
どうやら脳筋だらけの会議らしい。
実力社会ってのはなかなか難しいな。確実に実力差があればいいんだけど、僅差になると優劣つけたとしても本人達が納得しないだろう。
会議自体がかなり長引いているせいか、マオの声色にも疲れを感じる。いくら人造人間でも、これは早急に解決してあげないと。
「ね、マオ。考えたんだけど、完全に序列を決めてしまうと幹部内でも亀裂が走ると思うの。いくら弱肉強食でも、実力社会でも、さ」
『はい』
「私的にはそれぞれの特性を活かして仕事を与えればいいんじゃないかなって」
『…というと?』
「ほら。世の中には“冒険者”ってのがいるじゃない」
そう。忘れちゃいけないのが、この世界には魔王を討伐する者達がいる。いわゆる冒険者だ。冒険者のトップには勇者もいて、魔法世界においてなくてはならぬ存在。
魔界の住民は揃って全員が脳筋でかつ戦闘狂ときたもんだ。みんな闘いたくてウズウズしてる。なら、その闘う機会を与えてやれば、巡り巡って私の安寧に繋がる。はず。
「闘いたいならその場所を。強さを示したいならその機会を。闘う相手がほしいなら冒険者を」
『……つまり、迷宮ですか』
「さすがマオ。話が早い」
この世界には不思議なことに魔物と闘う専用の部屋がない。国の歴史書では大昔には世界中にあったはずの迷宮が、今ではそのほとんどが姿を消したらしい。原因は迷宮を維持するだけの魔力不足。その魔力は主に魔界から供給されたものなので、魔界…ようは魔王自身の魔力不足が要因とされている。
…えっと。結局は先代魔王の魔力不足が原因で、今の私の生活が脅かされつつあるってことか。




