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44.そして旅へ





ケルヴィンが王剣を入手するまでがどうやら迷宮の存在意義だったらしく、クリアしたら迷宮もサラサラと消えていった。


マオに、あの王剣をどうやって手に入れたのかを訊くと。


『魔王城に展示されておりました。ちょうど持ち主にお返ししようと考えていたところでしたのでようございました』

『ずっと展示されてたの』

『はい。先先代魔王の頃かと思われます。お返しする方法に悩んでおりましたが、マスターのお連れの人間が、アルカディアの王子とお聞きしまして、逃す手はないなと』

『すごいね、ありがとう』

『いえ、勿体なきお言葉』


という具合だ。


「…何というか、あっという間でした」

「楽しめましたか?」

「楽し…、まあ、己が強くなるには十分だったかと」


主にケルヴィンが死なない程度に加減された迷宮なので、強くなれたのなら大成功だ。


外で待機していたアルバトロスと、グリとフェニ。アルバトロスには思念伝達テレパシーで王剣のことを訊いてみた。すると。


『いけね。忘れてた』


展示されていることも知っていたし、彼の父親が先先代魔王で昔人間から命の対価として奪ってきたことも聞いていたらしい。


脳内で100回ほど殺しておいた。









帰城して、まずはユイにただいまのハグ。


「お帰りなさいませ、シイユ様」

「ただいま!」


ぎゅーっと抱きしめる。


「何か収穫はございましたか」

「うん。アルファとケルヴィンがね、」


振り返って目配せをすると、入手したものをユイに披露した。


「…シイユ様にご助力をいただきまして」

「……とても、貴重な装備品ですね…?」

「ユイ殿もそう思われますか」


私の分身体であるユイが、伝説級と神話級のアイテムに気付かないはずもなく。


『マスター。こちらはマオが造ったもの、ですよね?』

『うん。ケルヴィンとアルファのために、造ったんだと思う』

『………とんでもない魔力が込められておりますね』

『やっぱり分かる?』


溢れ出る魔力量。分かる人は分かる、その凄さ。


「ケルヴィン様は、剣も手に入れたのですね」

「はい」

「とても良い品です。大切になさってください」

「………はい」


さぞ、驚いたことだろう。王剣を“とても良い品”と評された。ケルヴィンは、むず痒くも隠しきれぬ喜びで顔を綻ばせた。


「さてシイユ様。次は何をなさいますか」


クロードの問いかけで、私はもともと考えてあった想いを伝える。


「アルファ、ケルヴィン。お二人にご相談なのですが」

「はい」

「何でしょう」


王女としても、魔王としても、13になった頃から考えていたこと。


「私、この世界のことをもっと知りたいと思ってます。他国もそうですけど、いろんな世界を見てみたい」

「…旅に出たい、ということですか?」

「……それは、また突然ですね」


アルカディアの過去の映像を観て、一段と気持ちが強くなったのは内緒である。


「王家に身を置く者として、学ぶべきものは外にあると考えてます」


すると、アルファやケルヴィンだけでなく、クロードやユイも跪いた。


「我ら、どこまでもお供いたします」

「例えこの世の果てであろうとも、この身朽ち果てるまで」

「どうかその御身の行く末に我らを同行させてください」

「シイユ様のご覧になる景色を、共に見る権利を」


…………安心した。全員が付いて来てくれる保証もなかった。

一人で旅をする勇気まではなかったので。

自由に生活してはいるけれど、私は結局、彼らと共が良い。








それから、旅に出ることを父と母に報告した。

父はかなり驚いていた。


「……本気なのか」

「はい。共としてクロード達も同行いたします」

「一人ではないのが救いではあるが…」

「ヨークシュア王国第一王女として、外の世界にも学ぶべきことがあると判断いたしました」

「う…む…」


なかなか歯切れの悪い父である。母はというと。


「もう決めたのですね?」

「はい」

「ならば、ここで引き留めてしまっては親が廃るというものでしょう」

「王妃…!?」

「我が子がこんな真剣な表情で報告に来たのです。却下してしまってはこれから先の親子関係が不安になるだけですよ。

「うぐ…!」


母強し。だが助かる。


「帰る目星は付けてあるのですか?」

「5年後の成人には」

「ならばこれ以上私の方から申し上げることはありません。5年後まで、シイユは旅のため不在と、国内貴族と隣国に連絡を。頑張っていってらっしゃい。道中くれぐれと気を付けるのですよ、シイユ」

「お母様…」

「それでいいのか!?」

「“可愛い子には旅をさせよ”というではありませんか。何を戸惑うことがあります」

「………………ッッッ、行ってこい、気を、付けるのだぞ…!!」

「…はい!!!行ってきます!!!」


とっっても搾り出すような声だった。 








以下、私が知らなかった会話である。


「…まだ13だというのに…!」

「もう13ですよ。世間では冒険者登録も出来る歳です」

「しかし…!」

「いいではないですか。まるで伝承に出てくる王女のようですわ」

「…そういえば、お前達は伝承について詳しいな」

「代々王家に嫁ぐ令嬢や王女は、昔話として詳細に語り継がれるお話ですから。かくいうわたくしも、陛下のお母様や教育係から何度も聴かされてまいりました」

「…そうだったのか。伝承の王女のようだと言ったが」

「…ええ。ふふ。シイユのあの目。あのオーラ。隠しきれておりませんでした。かつて勇者と婚姻を結んだ王女も、聡明で武勇にも優れていて、それでかつ度胸がある人物だったそうですよ?」

「……確かにあの子は賢い。そして度胸もある」

「かの王女を讃え、ある二つ名が付いたとか」








––––––––その二つ名は、“豪傑姫”。








ここまでお付き合いいただきありがとうございました!

好評なら続編書きたいなって思ってます

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