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42.ただいま迷宮3




「…ゆ。勇者って、自己治癒能力も高いんですね…」

「……それならそうと早く言ってくれ…」

「勇者の村では当たり前すぎて忘れるんです」


うさぎに噛まれた指は、ものの数秒で完全に治った。これも彼自身のレベルが高いからだという。

私とケルヴィンは、勇者が怪我をしたということでかなり取り乱した。アルファが何度も「大事だから」と冷静に説明してようやく落ち着いたのだ。


「シイユ様も、ご自身が魔物に好かれる体質だということを忘れないでください。貴女が平気でも、我らには牙を向く。……特に僕は、魔物に嫌われやすい。勇者ゆえでしょうが…」

「……そっか。ごめんなさい」


良かれと思ってやったことが、彼を傷付けてしまった。可愛いから、彼らとも共有したかったのに。


「…で、その子は」

「この子? ペットに出来るかなって」

「迷宮内の魔物をペットにしたがるのもシイユ様だけでしょうね…」


私の腕のなかで居心地よく鼻をふすふす鳴らすうさぎの可愛らしいこと。

……本当にペットに出来ないだろうか。クロードに『外に連れ出しても消えますよ』と言われたので仕方なく解放する。


「二人は何ともなかったですか?」

「…実は」


視線を交わした二人が、あった出来事を説明し始める。











私がうさぎのなかに取り込まれてすぐ、二人は私を助け出そうと動き出したらしい。けれどもそれに待ったをかけたのがクロード。


「ッシイユ様!!今お助けします!」

「お待ちください、二人とも」

「クロード殿!?何を悠長に…!」

「この部屋のボスですよ。ケルヴィン殿は戦闘に集中なさってください。…シイユ様は、私に」


そう聞いて、アルファはあっさりと「では任せた」と向き直した。

氷の鎧を纏う巨大なシロクマ。ひたいから鋭い角を生やし、いかにも強敵だと分かる姿フォルム


真っ白な息を吐き、牙を剥き出しにしてソレは最初の一撃を繰り出した。

手を二人の立つ場所目掛け振り下ろす。

ケルヴィンとアルファは瞬時に避けきり、攻撃態勢に入った。


……クロードはというと、すぐ救出に向かうのかと思いきや二人が戦闘に集中しているのを確認するとうさぎの山を見守り始めたのだ。

クロードには、うさぎ達に敵意がないことを感じ取れていた。私の持つ魔物に好かれる体質により、うさぎ達が私に懐いていることに気付いたのである。


そしてきっと中では私がうさぎと戯れているのだと察して(大正解)、せめて、二人の戦闘が終わるまではと、静観してくれた(感謝しかない)。


そう長くない時間クロードは見守り続け、もうそろそろ(戦闘が終わる)かとタイミングを見計らいうさぎの山を攻撃する振りをし始める。


「クロード殿!シイユ様は!」

「申し訳ありません、うさぎが中々手強く苦戦しております(大嘘&棒読み)」

「クロード殿が苦戦するほどだ。ケルヴィン。先ほどの魔法を撃ってみろ」

「よし分かった!!」


クロードとアルファに乗せられ、ケルヴィンはシロクマを討伐した際の魔法をうさぎへと放つ。


「炎よ、我が名のもとに敵を打ち砕け」


中に私がいるので表面を段階ごとに引き剥がす作戦だった。それが功を制し、無事に私の救出を達成したということである。










「それで、手に入れたものがこちらです」


ケルヴィンが見せてくれたものは耳飾り。

表記はこう。

《自己再生アイテム・神の祝福“リカバリー・ピアス”》

《ランク“神話級”》


「し、しんわきゅう」

「…正直、こんな貴重なものを俺がいただいてしまってもよろしいのかと…」


どうやらこの耳飾りに関しては一人分しかないらしく、なおさら着けることに躊躇しているようだった。


「僕は問題ないと言ったのですが、聞かなくて」

「…ふぅん」


耳飾りの装飾を観察してみる。煌びやかすぎず、かといって地味でもない。ケルヴィンに似合いそうなデザイン。

––––そうだよ。マオは“相応しいものを用意した”と言っていた。最初からこれはケルヴィンのために用意されたものなのだ。


「着ける気はないですか」

「……“神話級”はちょっと」

「なるほど。では破壊しますか」

「え!?」

「だって、着ける気、ないんですよね?」

「だからって破壊は…!」


彼に強引にでも装着させる方法。

神話級アイテムの破壊。

中々に頭のぶっ飛んだ発想だが、ケルヴィンが着けないと意味がない。本人が着けないと言うのなら、もう存在価値がないと判断される。

ゆえにはっきりと告げた。着けるか、破壊か。


私が二択で迫ってようやく、彼は渋い顔をしながら耳に装着した。

その様子を私達は静かに見守り、耳に取り付け《持ち主“ケルヴィン”》と表記された。


「うん。よく似合ってますよ」

「最初からさっさと着ければ良かったんだ」


なんだかんだ、ケルヴィンは耳飾りを気に入ったらしい。年相応に喜んでいた。




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