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41.ただいま迷宮2




《第一ステージ・クリア》


「素晴らしいです、アルファ。さすが勇者ですね」

「お褒めにあずかり光栄です」


息切れ一つ起こしてない。まだまだ余裕そう。それとは反対にケルヴィンは魔力不足の影響か、少し辛そうだった。


「ケルヴィン。大丈夫ですか? 少しひと休みしてから次に行きましょうか」

「っいいえ、問題ありません」

「でも…」


今ここで彼に脱落されては困る。けれど無理に進んでも余計に悪化するだけだ。

…使う予定はなかったが、仕方ない。


「…シイユ様?」

「黙って」


神聖魔法・魔力回復。


有無を言わさず彼に回復魔法をかけ、カツカツだった魔力を復活させる。パチパチと瞬きする彼に、「強がりはいけませんよ」と軽く叱る。


「我慢強いのは美学ですが、強がりは単なる馬鹿です。貴方が強くなるために私達がいるのですから、頼ってください」

「…も、申し訳ありません…」


割と本気めな私の説教にケルヴィンは叱られた子犬のようにシュンとなる。


「さあほら、報酬の宝箱が出てきました。ケルヴィンとアルファのものです」


サラサラと砂と化していくサソリの死体の中から、不自然な箱だけが取り残される。

中身はマオが用意してくれたものだから、その内容は私も知らない。


「…開けてみるか」


ごくりと二人同時に蓋を開ける。


「何が入ってました?」


そこには二人分の指輪。間違っても婚約指輪的なアレではない。

ケルヴィンが一つを手に取ると画面が表示される。そこにはこう記されていた。


《対熱変動アイテム“フラクタス・リング”》

《ランク“伝説級”》


「…でん、せつ、きゅう…」


ゆっくりと、噛み砕くようにケルヴィンが読み上げる。

ちょ、伝説級て。そうそうお目にかかれる物じゃないんじゃ…。そういや、私と同じくマオも錬金術は使えるはず。さすがに人造人間ホムンクルス人造人間ホムンクルスの製造は無理だけど、それ以外での魔法に関するものは、可能なはずだ。

もしかして、この迷宮のために、新しく造った…?


『指輪からマオの気配を感じますね。彼女が造ったものでしょう』

『あ、やっぱり?』


マオって器用だな。こんな指輪も造れちゃうなんて。


「良かったですね! これで、仮に次の部屋が極寒でもへっちゃらですよ」

「え、でもこれ二つしかありません…。シイユ様は熱変動耐性がおありなのですか…?」


あちゃーーーーー!!!!(心の叫び)

そうか、そうなるよね!!!

二人(特にケルヴィン)に色々与えようと思ったけど、私が魔王だと知らない二人からしたら、護るべき王女の私にこそ必要アイテムだと思うわけか!!!そうだよね!!!


「あ、えっと、私は…!」


やっべぇ上手い言い訳が思い付かない!!!


あたふたしているとまたもや助け舟。


「ここへ来る際、シイユ様がフェニックスの炎に触れても平気だったのを忘れたか。炎が平気なら極寒も平気だろう。わざわざそんなアイテムに頼るほどでもない」

「それもそうか」


ナイスフォローアルファ!!!

それでいいのかケルヴィン!!!


あらかじめ「二人で分けるように」と言っていたので、ケルヴィンは素直に指輪をはめた。指輪の表記には《持ち主“ケルヴィン”》が追加された。

そしてもう片方。


「では、こちらはありがたく頂戴いたしますね」

「うん、どうぞ」


アルファが装着する。同じく《持ち主“アルファ”》と追記された。







《第二ステージ・北極》


「…指輪がなければ凍死しますね」

「二人とも、平気ですか」

「問題ありません。シイユ様も、歩き疲れてはいませんか」

「あ…ふふ。平気です」


実はほんのりと結界を張ってある。女の子に冷えは厳禁だからね。

クロードは素で平気だけど、「元々気温に強い体質なんです」と誤魔化した。アルファからは「シイユ様の従者だからな」と謎のフォローが入ったし、「さすが、シイユ様…」とケルヴィンは納得していた。


「さっきが砂漠でサソリだったから、北極ときたらボスはやはりシロクマ…?」

「安直じゃないか?雪国なら雪だるまもあるだろう」

「雪だるまがどうやって襲ってくるんだよ…」


二人が敵の推察を始めた。

私はというと、前回の迷宮では雪がなかったので、ここぞとばかりに雪だるま製作。

いやー、雪国ときたら雪だるまだよね!!

かまくらも作ってみようかな。


「あれ? うさぎ??」


雪だるまの後ろからピョコッと姿を見せた可愛らしい小動物。…うん、迷宮にいるんだからこの子も魔物のはずなんだけど。……けど。


「……っ可愛い」


魔物とは思えぬほどの可愛らしさ。何だ、私ホイホイか。効果はバツグンだ。

ちょっとだけ触れないかな。あわよくば抱きたい。試しにゆっくりと近付く。

あああああ(悶絶)首をかしげてるの可愛いねほらこっちおいで大丈夫何もしないからちょっと触るだけだから。

ゆっくりゆっくり手を伸ばし、あと少しのところでふと気付く。


あれ。なんか、増えてな…。


ぴょこ。

触ろうとしたうさぎの隣にもう一匹うさぎがいた。え。


ぴょこ。ぴょこ。


二匹、三匹と増え。


ぴょこぴょこぴょこ。


それは瞬く間に10匹ほどの群れとなり。


「ひぇ。」


ぴょこぴょこぴょこぴょこぴょこ!!!


数え切れない大群が視界いっぱいに。


「ッシイユ様!!」


アルファの叫び声虚しく、私はうさぎの群れの中に引きずり込まれた。













暗い。でも苦しくない。なんか、苦しくないようにしてくれているような。

大群のあの光景が少し衝撃的トラウマだったので、またあの集団の真っ赤な目でガン見されたらどうしようと思ったんだけど…。


おそるおそる目を開けたら、一匹のうさぎだけが私を見つめていた。


「…あれ、さわ…れる?」


仰向けの私の上にそのうさぎはいて、撫でると心地よさそうに擦り寄ってくる。うわ、めちゃくちゃ可愛い。毛がふわふわ。すっごく気持ちいい。


「んふふ、ありがとう。もしかしてこのために友達呼んだのかな?」


きゅい、と可愛らしい返事。どうやら意思疎通が可能なようだ。このままペットに出来たりするのだろうか。迷宮内の魔物って攻略後消えちゃったりするのかな。


「キュ」

「ん?どうした?」


えらい懐いてくれる。頬に擦り寄ってくるのが心臓鷲掴みされ……


……………ドォン。


ん?


…………ドォン。


んん??


……ドォン。


なんか、衝撃音が。


––––ドォン!!!


「ぷきゅあ」

「!?」


突然視界が広がる。

抱きかかえていた一匹を残し、もきゅもきゅに集まっていたうさぎ達が散り散りになった。

一気に雪景色へと変わり、ちょっとだけ残念な気持ちになる。


「シイユ様!ご無事ですか!」

「お怪我は…!」

「あ、平気です」


ケルヴィンの手から火の名残り。爆発を利用してうさぎ達を引き離してくれたらしい。


「突然うさぎに取り込まれたので心配しましたよ」

「ありがとうございます。この通り、ピンピンしてます」


ついでに懐いてくれたうさぎを二人に見せた。目をぱちくりして、「大丈夫なんですか…?」と疑いの目。


「触れます。可愛いですよ」

「え…えぇ…」


何でドン引きされるのかしら。

おそるおそる手を伸ばすアルファ。本当に危険がないかのチェックなんだろうけど、その警戒心に気付いたのかうさぎが反応した。


「がぶっ」

「「あ。」」


アルファの指に噛み付いた。割としっかりめに。ぴゅーっと血が出て、私とケルヴィンの声がハモる。クロードとアルファだけが妙に落ち着いていた。


「わー!?止血止血!!いや、治癒魔法!?」

「お前、何でそんな平気な顔してるんだよ!?」

「…二人とも、落ち着いて」

『この程度の傷、勇者ならすぐに治りますよ…』





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